新型コロナウイルスの影響が顕著だった2020年度は国内の総合商社も苦戦を強いられたが、純利益で伊藤忠商事が三菱商事を抜き、トップに躍り出た。この記事では、伊藤忠商事の経営戦略を探っていく。

そもそも日本の「5大商社」とは?

日本の5大商社は伊藤忠商事、三菱商事、三井物産、住友商事、丸紅で、商社の中でも取引量や売上高が特に高い。トップの三菱商事と2位の伊藤忠商事の売上高は、10兆円を超えている 。

この5社に豊田通商と双日を加えて、7大商社とすることも多い。

総合商社5社の2021年3月期の業績を振り返る

続いて、5大商社の2021年3月期(2020年4月~2021年3月)の業績 を見てみよう。カッコ内は前期比を表している。

商社名 売上高 当期純利益
三菱商事 12兆8,845億円(−12.8%) 1,322億円(−77.7%)
伊藤忠商事 10兆3,626億円(−5.6%) 4,409億円(−21.2%)
三井物産 8兆102億円(−5.6%) 3,504億円(−14.8%)
丸紅 6兆3,324億円(−7.3%) 2,331億円(黒字転換)
住友商事 4兆6,451億円(−12.4%) −1,345億円(赤字転落)

売上高は各社とも前期を下回る中、三菱商事が12兆円超で引き続きトップとなった。当期純利益では、2020年3月期に1,902億円の赤字だった丸紅を除く4社が前期から数字を落とし、住友商事は赤字に転落した。

特に三菱商事は前期比でマイナス77.7%と大幅に業績が悪化したため、当期利益では伊藤忠商事がトップとなった。

三菱商事は、豪州原料炭事業において市況下落の影響を受けた金属資源や、ローソン宛てのれんや無形資産の減損計上によって減益となったコンシューマー産業などのセグメントが業績の足を引っ張った 。

コロナの影響を最小限に、食料関連で増収も

前期比6,203億円の減収となった伊藤忠商事は、セグメント別に見るとエネルギー関連事業や化学品関連取引の販売価格下落や取引減少で4,228億円の減収、自動車関連・航空機関連取引の販売数量減少で1,591億円の減収、アパレル関連事業の取引低調などの影響が大きかった繊維部門で1,024億円の減収となった。

一方で食料関連では、取引そのものは減少したものの、前期にプリマハムを連結子会社化したことで1,470億円の増収となっている。

また、2020年度には傘下のファミリーマートの株式を非公開化し、成長戦略を加速するとともに、グループ連携による消費者接点を生かしたビジネスの拡大を推進した。

各セグメントとも利益は減少しているものの、連結財政面では、自己資本利益率(ROE)が前期比4.3ポイント減の12.7%、黒字会社比率も同6.1ポイント減の82.4%の高水準を確保するなど、新型コロナの影響を最小限に抑えた格好だ。

四半期ごとに業績は上向いており、金属や電力・環境ソリューション、化学品、情報・通信などがけん引し、基礎収益は第4単四半期として過去最高を記録するなど、次年度につながる回復を見せている 。

今期2022年3月期の伊藤忠の業績はどうなる?

2022年3月期予想における当期純利益は、伊藤忠商事が5,500億円(前期比37%増)、三菱商事が3,800億円(同120.2%増)、三井物産が4,600億円(同37.1%増)、丸紅が2,300億円(同2.1%増)、住友商事が2,300億円(黒字転換)と、それぞれ回復を見込んでいる。

伊藤忠商事は、2021年度から3ヵ年に渡る中期経営計画「Brand-new Deal 2023」を策定 し、「①マーケットインによる事業変革」「②SDGsへの貢献・取り組み強化」を柱に業態の変革を推進し、期間中に純利益6,000億円を目指す。

①ではバリューチェーン変革による事業成長の実現に向け、商品力や利便性、親しみやすさといったCVSの基本を徹底的に向上し、またAI(人工知能)を活用した発注最適化やサプライチェーン全体の高度化、デジタルパートナーとの提携による新たな海外事業モデルの構築などを進め、グループ最大の消費者基盤であるファシリティマネジメント事業の進化を図る 。

また、生活消費分野における企画開発力や独自販売チャネルを融合するなど、川下起点のバリューチェーン全体を変革するとともに、データの活用やDXによる収益機会の拡大などに積極的に取り組む 。

②では石炭鉱山の売却など一般炭権益からの完全撤退を図る一方で、AI蓄電池による分散型電源プラットフォームの構築を図るなど、脱炭素社会を見据えた事業の拡大を推進する。

また、プラスチックリサイクル事業や水・廃棄物処理事業などの循環型ビジネスの主導的展開や拡大、業態変革を図るほか、バリューチェーンの強靭化による持続的成長を通じてSDGsの実現に貢献する方針だ。

海外 情勢が依然不透明な点が気になるところ

伊藤忠商事は2022年3月期第2四半期(2021年4~9月)決算で前年同期比19.5%増の5兆8,748億円の収益を上げ、純利益は同97.8%増の5,343億円だった。通期予想においても、純利益を5,500億円から7,500億円に上方修正するなど、着実に成果を上げているようだ。

今のところ国内では新型コロナは落ち着いているが、海外情勢は依然不透明だ。全世界を相手にビジネスを展開する商社としては予断を許さない状況が続くが、引き続き好調を維持し、日本経済をけん引してほしいところだ。

文・岡本一道(政治経済系ジャーナリスト)
国内・海外の有名メディアでのジャーナリスト経験を経て、現在は国内外の政治・経済・社会などさまざまなジャンルで多数の解説記事やコラムを執筆。金融専門メディアへの寄稿やニュースメディアのコンサルティングも手掛ける。

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