黒い作業着をまとい、黒いバギーに乗り、宮城県の砂浜を颯爽と駆け抜ける集団がいる。彼らはそのバギーを「特掃車」と名付け、砂浜清掃を行う。砂浜に突如として現れた、謎の黒い集団に実際にお話を伺い、その活動内容と特掃車の開発ストーリーに迫る。

砂浜のごみをバギーで回収!? 黒い作業着をまとい、砂浜を救う謎の集団
(画像=『オーシャナ』より引用)

予想外の企業が、海洋環境美化事業をスタート

砂浜清掃を行っているのは、宮城県にある「株式会社S・T・K工業」という大型トラックの架装や鈑金・塗装を行っている会社。2018年のある日、クライアントから宮城県にある海水浴場の清掃用機械の製作相談を受けた佐藤哲也社長(以下、佐藤社長)は、海岸に行って驚愕したという。目に飛び込んできたのは、衝撃的な量の漂着ごみ。海水浴場となる砂浜は清掃されていたものの、それ以外の砂浜のごみは処理しきれずに放置状態。そのとき、佐藤社長は、「ごみとの戦いは容易ではなく、多くの人の手が必要だ。この状態を放って置けない」と思ったそう。同時にものづくり屋として何かできないかという想いが込み上げ、それはすぐに行動へと移った。

現行の事業とはまったく縁もゆかりもない「海洋環境美化事業」を思い切って立ち上げ、砂浜の漂着ごみを効率よく回収する「特掃車」の開発をスタートしたのだ。特掃車は、日本初上陸のカナダ製の林業などにも用いられる全地形対応の6輪バギーをベース車両として使用し、少人数で作業でき、軽量で頑丈なものを目指した。もう一つ大切にしたのが、「楽しく、カッコよく清掃活動をすること。みんなが一緒にやりたいと思ってもらえるようなものにすること」、そんな想いを抱きながら開発を進めていった。

砂浜のごみをバギーで回収!? 黒い作業着をまとい、砂浜を救う謎の集団
(画像=ベース車両となった日本初上陸のカナダ製の6輪バギー、『オーシャナ』より引用)

しかし、いざ開発を始めると、そう簡単にはうまくいかず、改良を続ける日々。開発のアイデアを得るためにYouTubeを見たり、使えそうな部品がないか自ら探し回ったり、頭を抱える佐藤社長。しかし、従業員からアイデアや協力もあり、無邪気に楽しく意見を出し合い、試走するのを心待ちにしながらつくっていったそうだ。

砂浜のごみをバギーで回収!? 黒い作業着をまとい、砂浜を救う謎の集団
(画像=開発中の様子、『オーシャナ』より引用)

筆者が取材をしていたとき、佐藤社長と従業員の方々が楽しそうにいきいきしながら話す姿を見ていると、心から楽しみながら仲間と共に開発をしている様子が容易に目に浮かんだ。

そして、開発スタートから約1年。2019年12月に満を持して砂浜清掃デビュー。場所は、宮城県・菖蒲田浜(しょうぶたはま)ビーチ。漂着ごみや石を収集して欲しいというもので、軽トラック3〜4台分を収集することに成功した。

砂浜のごみをバギーで回収!? 黒い作業着をまとい、砂浜を救う謎の集団
(画像=当時の写真、『オーシャナ』より引用)

完全オリジナルで特許取得!特掃車のスペックとは

カナダから輸入してきた6輪バギーを加工し、その後方に完全オリジナルのけん引式清掃システムを装着することで、世界にたった一つの砂浜清掃専用車両「特掃車」(特許取得済み)へと進化させた。

砂浜のごみをバギーで回収!? 黒い作業着をまとい、砂浜を救う謎の集団
(画像=『オーシャナ』より引用)

バギーの前方に付けられたアームでは、人の手で収集することが難しい、流木や漁具などの大型のものを収集し、後方のけん引式清掃システムは昇降式で、砂浜表面にある1cmのプラスチック片といった小さなごみまで収集する。美しいビーチにとって大切な存在である砂は、極力収集しない。生態系への影響も与えない設計になっており、砂浜に生える植物や、砂の中にあるウミガメの卵、砂浜に住むカニなどには十分配慮しながら行っているのだという。

砂浜のごみをバギーで回収!? 黒い作業着をまとい、砂浜を救う謎の集団
(画像=『オーシャナ』より引用)