大企業における早期・希望退職者の募集が目立っている。しかも黒字であるにも関わらず、大規模に募集している企業が少なくないのだ。最近ではフジテレビも希望退職を募集し、話題になった。今、大企業における雇用に何が起きているのだろうか。

黒字の大手企業が続々と希望退職者を募集

ホンダ、日本たばこ産業、フジテレビは2021年に早期・希望退職者の募集を行った。この3社はいずれも黒字だが、なぜ早期・希望退職者を募集したのだろうか。

ホンダ:2021年3月期は6,574億円の黒字にも関わらず……

ホンダは2021年3月期、通期決算(2020年4月〜2021年3月)で6,574億2,500万円の黒字を計上している。しかし同社は2021年度に早期・希望退職者を募集し、2,000人以上の応募があったという。

<ホンダの2021年3月期の通期業績>
売上高 営業利益 当期利益
13兆1,705億円 6,602億円 6,574億円
※出典:ホンダ決算資料

ホンダが早期・希望退職者を募集したのは、自動車業界で起きている変革に合わせて、自社の従業員層を最適化しようと考えたからだ。

自動車業界では自動運転化などの潮流が起きており、各社は次世代技術であるAI(人工知能)技術などのスキルを有した若いエンジニア人材を欲している。それはホンダも例外ではない。

ホンダは2021年の早期・希望退職者の募集では、対象を55歳以上の従業員に限定した。世代交代を進め、自動運転化の分野などで他社に遅れないように準備しているのだ。

日本たばこ産業:2020年12月期は3,102億円の黒字にも関わらず……

日本たばこ産業(JT)は2021年2月、国内たばこ事業で早期・希望退職者の募集を始めることを 発表した。対象は46歳以上の従業員で、募集人数は1,000人。

日本たばこ産業もホンダと同じく、黒字の大企業だ。2020年12月期の通期決算(2020年1〜12月)では、3,102億5,300万円の黒字を計上している。

<日本たばこ産業の2020年12月期の通期業績>
売上高 営業利益 当期利益
2兆925億円 4,690億円 3,102億円
※出典:日本たばこ産業決算資料

日本たばこ産業の事情は、ホンダとは異なる。長年にわたって紙巻きたばこの販売数量が減少し、しかもコロナ禍で免税店などでのたばこの売上が落ち込み、売上減少に拍車をかけているからだ。

企業の業績が黒字であることと、業績が上向いているかどうかは別の問題だ。黒字であっても早期・希望退職者を行う大企業は、日本たばこ産業のように今後の業績に懸念があるケースが少なくない。

フジテレビ:2021年3月期は101億円の黒字にも関わらず……

フジテレビのケースも紹介しよう。フジ・メディア・ホールディングスは2021年11月、子会社のフジテレビにおいて、50歳以上で勤続10年以上の社員を対象に、早期・希望退職の募集を行うことを明らかにした。以下のとおり、同社も黒字企業である。

<フジ・メディア・ホールディングスの2021年3月期の通期業績>
売上高 営業利益 当期利益
5,199億円 162億円 101億円
※出典:フジ・メディア・ホールディングス決算資料

フジテレビが早期・希望退職者の募集を行った理由は、ホンダと似ている。フジテレビの金光修社長は会見で、早期・希望退職者の募集の理由として社員構成が「逆ビラミッド型」になっていることを挙げた 。

インターネットの普及でテレビの存在感が薄れる 中、世代の若返りを図って新時代の映像メディアの在り方を模索していく考えなのだろう。

心の備えをしておいて損はない

民間調査会社の東京商工リサーチの調べによると、2021年に1,000人以上の早期・希望退職者の募集を行った企業はホンダや日本たばこ産業を含めて5社あり、そのうち黒字は4社だった 。

東京商工リサーチは、「業績悪化を理由にした中堅企業の小規模募集と、大企業の大型募集の『二極化』」を指摘している。

これらを鑑みると、あなたが黒字の大企業に勤めていたとしても、早期・希望退職者の募集がいつ始まってもおかしくない。もしあなたの職場で早期・希望退職者の募集が始まったら、手を挙げるべきだろうか。

これには正解がない。自分のスキルなどを踏まえて判断するしかないだろう。一方、もともと早期退職を考えていた人にとっては大チャンス。退職金を割り増しで受け取れるからだ。

大切なのは、「もしかすると、うちの会社でもいずれ早期退職の募集があるかも……」と想定しておくことだ。想定しておけば、いざ募集が始まっても冷静でいられる。心の備えをしておいて損はないのだ。

文・岡本一道(政治経済系ジャーナリスト)
国内・海外の有名メディアでのジャーナリスト経験を経て、現在は国内外の政治・経済・社会などさまざまなジャンルで多数の解説記事やコラムを執筆。金融専門メディアへの寄稿やニュースメディアのコンサルティングも手掛ける。

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