ネアンデルタール人の遺伝子を持つ脳が復活したようです。
2月12日に『Science』に掲載された論文によれば、化石から抽出した遺伝子を組み込むことで、人類の培養脳を「ネアンデルタール人化」させることに成功したとのこと。
ネアンデルタール人化によって、培養脳は見た目を大きく変えただけでなく、神経細胞のつながり方や電気パターンにも多くの異変がみられました。
研究成果は、絶滅してしまった人類種を再生するにあたり、重要なターニングポイントになると考えられます。
絶滅した彼らの脳は、私たちとどんな違いがあったのでしょうか?
目次
絶滅したネアンデルタール人の遺伝子を持つ培養脳
ネアンデルタール人化した培養脳は小さくなってシワが増えた
より完璧なネアンデルタール人の培養脳を目指す
絶滅したネアンデルタール人の遺伝子を持つ培養脳
ネアンデルタール人とデニソワ人は、人類に最も近い存在でした。
しかし人類と接触した直後、彼らは進化的なスケールからみれば、ほぼ一瞬で滅んでしまいました。
そのため彼らについて知る方法は、化石になった骨や、骨から抽出した遺伝子に限られていました。
そんな古代人の脳は柔らかい脂質の塊であり、死後真っ先に分解されてしまうため、発掘することはほぼ不可能です。
一方、近年の生物工学の進歩により、人類はたった1つの細胞からでも人間の脳を培養することが可能になってきました。
この人工的な培養脳は「脳オルガノイド」と呼ばれ、人体実験の代用品として広く用いられています。
今回、カリフォルニア大学の研究者たちは、この脳オルガノイド作成技術を遺伝子工学と結びつけ、ある種の転生を受け付ける「うつわ」としました。
もちろん、脳オルガノイドにネアンデルタール人の魂が入るわけではありません。
入るのは、彼らの遺伝子です。
元となるヒト万能細胞の遺伝子の一部を、化石から抽出したネアンデルタール人の遺伝子(中身)と入れ換えて培養することで、ネアンデルタール人の性質をもった脳オルガノイドを作れるのです。
そのために研究者たちはまず、人類とネアンデルタール人の遺伝子を比較し、違いを探しました。
結果、61カ所の遺伝子(タンパク質のコード部分)で種族的な違いをみつけます。
その中でも研究者たちの目を最も引き付けたのは「Nova1」と呼ばれる遺伝子でした。
「Nova1」は脳の発達において「調節役(選択的スプライシングを行う)」として知られる重要な遺伝子だったからです。
研究者たちはさっそく元となる細胞の「Nova1」を人類型からネアンデルタール人型に入れ替え、脳の培養をはじめました。
研究者たちの予測どおり、脳オルガノイドを「ネアンデルタール人化」できたでしょうか?
ネアンデルタール人化した培養脳は小さくなってシワが増えた
結果は肉眼でも確認できるほど、極めて明白な違いとなってあらわれました。
上の図のように、現代人の脳オルガノイドは滑らかな表面を持つ反面、ネアンデルタール人の遺伝子を組み込んだ脳オルガノイドは、ゴツゴツとしたシワを多く含む表面になった一方で、全体的な直径は、より小さくなりました。
研究者たちが働いている遺伝子を比較した結果、なんと277種類もの遺伝子の発現パターンが変化していました。
またネアンデルタール人化した脳オルガノイドでは脳細胞の増殖パターンや、細胞間をつなぐ接続部(シナプス)に関与するタンパク質にも違いがありました。
ネアンデルタール人型の脳オルガノイドは現代人型に比べて早い段階で細胞増殖や電気的活動が活発化していたのです。
この結果は、ネアンデルタール人の赤ちゃんは、人類の赤ちゃんよりも早熟であったことを示唆します。
同じような早熟さはチンパンジーなどでもみられます。
チンパンジーの赤ちゃんは同時期の人間の赤ちゃんにくらべてはるかに早熟であり、運動能力や知能が上回っているのです。
一方、人類の赤ちゃんはずっと未熟なままですが、より長い期間、知能の発達が続き言語能力の獲得につながります。