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シルクは天然のコーティング薬になる
シルク液の保存効果は抜群に優れている
無色・無味・無臭で安全なコーティング剤
point
- シルク液は食品表面に付着するとメッシュを形成してコーティングを行う
- メッシュは酸素の通過を適度に阻害することで生鮮食品が熟れるのを防止する
- 生鮮食品の賞味期限が2倍になれば、店頭での販売期間も2倍に伸びる
実験の失敗や研究者の怠慢によって引き起こされた偶然は、時に画期的な発見に繋がります。
今回のシルクの新しい特性にかかわる発見も、そんな偶然から見つかりました。
MIT(マサチューセッツ工科大学)の起こしたベンチャー企業では、絹(シルク)の”食品や医薬品”としての性能を調べており、定期的にシルクを食品として使う料理コンテストが行われていました。
シルクはカイコが作る天然の繊維であり、分解することで良質なタンパク源となるほかに、余分な脂肪や糖を吸着することで、生活習慣病の予防にも役立つことが知られています。
研究者のマレリ氏も、コンテストに出すシルク入りの料理の開発を行っていましたが、シルクを溶かした懸濁液に誤ってイチゴを1つ落としてしまいました。
すぐにイチゴを引き上げたものの、マレリ氏はやる気をなくしたのか、一週間ほど実験を休んでしまいました。
ですが、このマレリ氏の行動が、思わぬ発見に繋がります。
一週間後、実験を再開しようと戻ってきたマレリ氏は、1つの新鮮なままのイチゴと、その他の腐ったイチゴを発見します。
新鮮のままだったイチゴは、誤ってシルク液に落としてコーティングがなされたものでした。
いったい、イチゴに何が起きたのでしょうか?
シルクは天然のコーティング薬になる
野菜や果物といった生きた食品をコーティングして長持ちさせる技術は、現在まで多くの研究者によって研究されています。
コーティングの一般的な役割は、生きた食品を酸素や水蒸気から「適度に遮断」し細胞呼吸を「適度に抑制」することで成し遂げられます。
そのためコーティング剤にはフィルムとしての強さと、水を拒絶する疎水性の両方が求められます。
しかしその両方の性質を持つ安全なコーティング剤はなかなかみつかりませんでした。
しかしマレリ氏による発見により、実はシルクが、この性質を完全に備えていることが明らかになりました。
シルクを構成するフィブロインと呼ばれるタンパク質は、上の図のように適度な疎水性のパーツを持ち、集まると自然に繊維を構成する性質(自己組織性)があります。
そのため適切な濃度で水に混ぜて懸濁液を作ることで、適度な通気性を持つコーティング剤にすることができるのです。