ゲームについては昔から子供への悪影響を不安視する声が多く聞かれます。
確かに残虐表現の過剰なゲームや、あまりに長時間のプレイは道徳面や健康面に良くないのではないかという想像が働くのは仕方ないことかもしれません。
しかし、最近の研究の多くはゲームプレイが脳の注意力や空間認知に関わる領域を活性化させ強化するという、プラスの効果が報告されていて、ゲームは認知トレーニングツールとして注目されています。
科学誌『Frontiers in Human Neuroscience』に6月19日付けで発表された研究では、ゲームによる認知能力(ワーキングメモリ)のテストを行ったところ、子供時代にゲームをしていた人は、認知機能向上の影響が大人になっても続いているという新しい事実を報告しています。
子供時代にゲームをまったくやったことがない人よりも、ゲームを遊んだ経験を持っている人の方が脳は有利に働く可能性があるようです。
目次
ワーキングメモリのトレーニングとテスト
経頭蓋磁気刺激法も併用した認知能力の向上実験
ワーキングメモリのトレーニングとテスト
カタルーニャ・オベルタ大学の研究チームは、18歳から40歳までの被験者27人(女性14人、男性は13人)を集め認知能力を調査しました。
この被験者グループの中には、ゲーム経験のある人と、まったくない人が含まれており、中には思春期前まで熱心なゲーマーだったけれど今はまったくゲームをやっていないという人もいました。
調査されたのはワーキングメモリ(作業記憶)という、一時的な作業や動作を記憶・処理する能力です。
「一度に2つのことが処理できない」とか「頼まれたことを忘れやすい」という人はワーキングメモリの働きが弱い可能性があることが指摘されていて、逆に要領のいい人はこの機能が高いと考えられています。
最近の研究では、このワーキングメモリを向上させるトレーニング方法に注目が集まっており、ゲームを使った認知トレーニングもワーキングメモリの強化を主な目的としています。
調査は1カ月間行われ、その間に被験者は、トレーニング指定ない状態、トレーニングを行った状態、トレーニングから15日後の状態、という3つのポイントでテストされました。
調査で使用されたのは、1996年に任天堂から発売された3Dプラットフォームのアクションゲーム『スーパーマリオ64』です。
テストにマリオを使うというのは、なんとも面白い研究ですが、これはマリオ64が3Dプラットフォームでの探索やパズル解決を目的としたゲームであり、計画能力や、目標指向の行動が必要とされるためだからとのこと。
また実験の結果に影響を与えないため、マリオ64やその続編にあたる作品をプレイしている人は被験者から除外したとチームは説明しています。
トレーニングには同じゲームの代替バージョンを用意して、15分間のプレイさせました。
テストに使用された課題は、障害物に直面したときの行動や隠されたオブジェクトを見つける、目標地点へ到達するなどで、全体的なパフォーマンスの判断は、期間中全体で達成された目標の総数を試行回数で割ることで計算されました。
経頭蓋磁気刺激法も併用した認知能力の向上実験
また、この実験の特殊な点として、経頭蓋磁気刺激法(英: Transcranial magnetic stimulation、以下TMS)の有用性も同時に確認されたことがあげられます。
TMSは頭蓋の表面から磁気的な刺激を与え、脳組織の活動を変化させる装置です。
なにそれこわい、と思う人もいるかもしれませんが、この装置は多くの神経症状(脳梗塞、パーキンソン症候群など)や精神症状(うつ病、幻聴など)の治療にに有効であることが示されていて、認知機能の向上にも効果が期待されています。
研究ではこのTMSの刺激を組み合わせることで、認知能力の向上ができるかについて調査されたのです。