愛する人との抱擁がストレスを低下させることはよく知られています。

実際、辛いときに抱きしめられると落ち着くはずです。

そして最近、ドイツ・ゲーテ大学フランクフルト校(Goethe University Frankfurt)心理学研究所に所属するアルジョシャ・ドライソーナー氏ら研究チームは、愛する人がいなくても、ボディタッチによってストレスを低下させられると発表しました。

「見知らぬ人との抱擁」や、自分で体を触って慰める「セルフタッチ」がストレスホルモン「コルチゾール」のレベルを低下させたのです。

研究の詳細は、10月8日付の学術誌『Comprehensive Psychoneuroendocrinology』に掲載されました。

目次
ボディタッチはストレスを低下させる
「セルフタッチ」と「見知らぬ人との抱擁」がストレスを低下させてくれる
ストレスを感じたときは両手で自分を抱きしめるべき

ボディタッチはストレスを低下させる

「愛のない抱擁」より「セルフタッチ」の方がストレスを低下させると判明
(画像=愛する人との抱擁はストレスを低下させる / Credit:Depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

愛する人とのボディタッチにはざまざまなメリットがあると報告されています。

例えば、抱きしめられたり手を握られたりすると、血圧が下がったり安心感が得られたりするのです。

また2007年の研究では、パートナーにマッサージされた女性は、ストレスを感じやすい状況でもコルチゾールのレベルが低いと報告されています。

コルチゾールとは、人がストレスを受けたときに脳から多く分泌されるホルモンです。

コルチゾールの分泌が慢性的に多くなると、うつ病や不眠症、精神疾患につながるとさえ言われています。

つまり愛する人のボディタッチには、ストレスを低下させる確かな効果があるのです。

では、パートナーと呼べる人がいない場合でも、同様の効果は得られるのでしょうか?

またコロナ禍にあって人との接触を避けたい場合、自分で自分を抱きしめたり触ったりする「セルフタッチ」に頼ることはできるのでしょうか?

研究チームは、これらの疑問を解決するため、実験を行うことにしました。

「セルフタッチ」と「見知らぬ人との抱擁」がストレスを低下させてくれる

「愛のない抱擁」より「セルフタッチ」の方がストレスを低下させると判明
(画像=セルフタッチがコルチゾールレベルを下げる / Credit:Depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

実験には平均年齢21歳の成人159人が参加しました。

参加者には、それぞれスピーチと数学の課題を行ってもらい、準備の時間を含めてストレスを感じるよう誘導しています。

そしてスピーチを行う前に、次の3つのグループに分けられました。

1.学生アシスタント(見知らぬ人)と20秒間抱擁する
2.20秒間セルフタッチする
3.紙飛行機を作る(接触を伴わない無関係な作業)

②の「セルフタッチ」グループは、タッチの方法も指定されました。

片手を心臓の上に置き、もう片方の手を腹部に置くようにしたのです。

ちなみに③のグループは、①②と比較するために、ボディタッチを行わない20秒ほどの作業(紙飛行機の作成)を行いました。

実験中、すべての参加者はストレスの誘発に応じて、コルチゾールレベルを上昇させていきました。

ところが、①見知らぬ人との抱擁や②セルフタッチを行ったグループは、コルチゾールレベルが低下。

しかも一番効果が高かったのは、②のセルフタッチを行ったグループだったのです。

つまり、セルフタッチは確かにストレスを低下させてくれる「意味のある行為」だったのです。