目次
コケ玉は群れで移動していた
コケ玉の転がる仕組み
氷河地帯の温かいオアシス
point
- 氷河地帯にあるコケ玉は群れで移動する
- コケ玉の移動方向は地面の傾きや風向きとは無関係である
- コケ玉は内部が温かく、氷河地帯において小さな動物に生活環境を与えている
1950年代、アイスランドの研究者は氷河に覆われている大地の上に、手の平サイズの奇妙なコケ玉を発見しました。
コケ玉は、根を地面に付着させておらず、簡単に持ち上げることができたので、その見た目から「氷河マウス」と名付けられました。
発見から数十年後、21世紀の研究者はさらに奇妙なコケ玉の特性を発見。コケ玉は植物であるにもかかわらず「群れながら移動していた」のです。
研究論文の著者の一人であるティム・バルトロマウス氏は2006年にはじめてコケ玉を見て以降、その魅力に取りつかれ、コケ玉がなぜ群れで移動するか調査しています。
結果、コケ玉の移動は地面の傾きや風向きといった外部からもたらされる単純な力とは無関係であることが判明しました。
それどころか調査を行った地点のあるコケ玉は傾斜を登っていたり、風に逆らった転がりをみせていたのです。
この事実は、移動要因が明らかにコケ玉そのものにあることを意味します。
群れで転がるコケ玉は、意思を持つ植物なのでしょうか?
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コケ玉は群れで移動していた
これまでの研究では、コケ玉の移動方向や速度にかかわる正確なデータがありませんでした。
そこで研究者らはアラスカの氷河に存在するコケ玉に簡単な目印をつけ、定期的に位置を測定することで、移動に関する正確なデータを取ることにしました。
4年に及ぶ追跡が行われた結果、コケ玉の群れの移動方向に明らかな方向性があることが判明。
コケ玉の群れは夏が訪れると、北極において太陽が昇る方向である「南」に移動するようになり、夏の終わりが近づくと、西に沈む太陽を追うように「南南西」の方向に移動することがわかりました。
また、コケ玉の速度の中央値は一日につき2.5cmでしたが、夏になると一日で4cmに加速。その最高速度は一日につき7.8cmで、肉眼でも変化が分かる速度になったそうです。
コケ玉の転がる仕組み
研究者らは過去にコケ玉の解剖も行っていました。
彼らが残した記録によると「コケ玉は複数種類のコケの混合から作られており、総じて内部に小さな石が含まれている」とのこと。
また近年の研究でも解剖が行われ、コケ玉の内部にはトビムシやクマムシ、線虫などの無脊椎動物が暮らしていることが明らかになりました。
コケ玉の持つフワフワとした構造が熱を溜め込み、氷河地帯のなかで生き物の生活の場として機能していたのです。
しかし、やはりコケ玉を転がすような駆動力のある構造は内部にみつかりませんでした。
そこで研究者は、コケ玉内部の温度が下にある氷を解かすかもしれないと考え、ある仮説を立てました。
下の図はその仮説の内容を示しています。
仮説ではまずコケ玉は自らの保温能力によって底の氷を溶かし、結果として台座のような構造の上に座ることになります。
そして台座の傾きが限界を超えると、コケ玉は台座から転がり落ちて移動を完了させるとのこと。
今回の研究でも上の写真のように、台座の上に乗っているコケ玉が確認されており、これらのコケ玉はまさに移動中であると考えられました。
しかし、この仮説だけではコケ玉の移動方法を完全に説明することができませんでした。
というのも、上のコケ玉の断面図の写真からもわかる通り、上部で茎を成長させているものがあるからです。
つまり、コケ玉の中には上下が存在しています。
このことは、仮説通りに転がってしまえば、上部に伸びている茎が折れてしまうことを示します。
そのため、コケ玉にはまだ未知の移動方法が存在していると研究者は考えています。