東南アジア諸国の経済成長は今なお著しい。不動産価格の高騰を背景に、各国からの不動産投資マネー流入が海外から加速しており、キャピタルゲイン(値上がり益)やインカムゲイン(運用益)を狙った動きが盛んになっている。ただ投資先不動産の選び方次第では、決して期待していた結果がもたらされるとは限らないのが現状だ。
この記事では経済成長が続く東南アジアの有望国、特にタイやインドネシアなどに焦点を絞り、不動産投資のポイントを解説する。その中でも特に「エリア選定」にフォーカスして説明する。また東南アジア諸国連合(ASEAN)域内でも特に高い成長率が今後も期待されるカンボジアやミャンマーの不動産投資事情についても触れる。
ASEAN経済をけん引するタイに注目
日系企業の進出が進み、在留邦人も増え続けているタイ。日本貿易振興機構の調べによると、現地で活動が確認された日系企業の数は2017年度調査で5444社に上り、2014年度に実施した前回調査から877社は増え、その増加率は19.2%と高い数値を示した。
注目すべきは、不動産事業などを営む日系企業の進出数だ。2017年度調査では100社が既に進出しており、前回調査からの増加率は54.7%にも達している。社数で言えば、3年間で36社、つまり1カ月に1社が日本からタイに進出していることになる。
タイは、インドシナ半島における「メコン経済圏」の中心国であり、東南アジア諸国連合(ASEAN)の牽引する国の一つだ。今後はさらに諸外国からの人口流入による住宅需要の増加も見込まれており、不動産価格の伸びにも期待が掛かる。
急速に新設・拡張が進む交通インフラ網
タイでは特に首都バンコクにおける不動産価格の高騰が著しい。さらにエリアを絞れば、BTSと呼ばれるスカイトレインや地下鉄の延伸地域で不動産開発が進み、大手デベロッパーによる開発ラッシュが過熱している。
現在バンコクでは、スカイトレインが2路線、地下鉄が1路線運航している。このスカイトレインのうち、首都中心部の目抜き通りであるスクンビット通りに沿って走る路線が今年、南側に1駅延伸された。今後はさらに路線が南に延び、隣県であるサムットプラカーンにも接続される計画もある。
この延伸によって、バンコクの不動産事情は大きな変化の要素を抱えることになる。スカイトレインが接続されれば、郊外や隣県からでも都市中心部へのアクセスが容易になる。バンコク中心部は渋滞が深刻なこともあり、これまでは自家用車やバスを使った通勤を避けて、仕方がなく平米あたりの賃料が高い中心部エリアに住むという選択肢を選ぶタイ人や在タイ外国人も多かった。
しかし今後は、そういった層がスカイトレインの延伸地域に移動していく可能性がある。そしてこの動きは将来的に一層顕著になっていくとみられている。バンコク政府は2023年までのスカイトレインや地下鉄、モノレール、空港鉄道などの新規着工・延伸計画を既に発表しており、今後5年間で10路線程度が新たに誕生・拡張される可能性が大きいからだ。
大手財閥などの大型商業建設計画に着目
首都バンコク以外でも不動産投資に対する熱視線が注がれていることも覚えておきたい。特に大手不動産開発業者が計画を明らかにしている大型複合施設の周辺などは注目エリアと言えるだろう。
例えば、タイビール大手企業などを抱える大手財閥TCCグループは、200億バーツ(約700億円)を今後3年間で投じて、バンコク郊外のほかに観光地としても日本人に有名なチェンマイやパタヤで商業施設の新設や改装を進めると発表している。タイでは大型複合施設の建設が近年盛んで、その周辺エリアの不動産価格も上昇傾向にある。
またタイにおける不動産事業の最前線で活躍する日系企業の動向も、不動産投資先を考える上での参考材料になる。東急電鉄(本社・東京)はタイの大手財閥「サハグループ」とタッグを組み、2014年から郊外型工業団地の密集地域に近いチョンブリ県シラチャーで日本人向け集合住宅の開発・運用を続けてきた。産業クラスターの集積により、東南アジアにおける製造業の一大拠点として知られているタイ。その中でもこのシラチャー地域はまだまだ不動産事業の大きな発展の可能性を秘めている。
東南アジア最大の人口を誇るインドネシア
2億5500万人という東南アジア最大の人口を有し、世界でも4番目に位置するインドネシアは、1998年のスハルト政権崩壊を機に民主化の道を歩み始めた。内需と海外投資、そして政権の安定を基盤に、特に首都ジャカルタが着火点となった経済成長は目覚ましいものがある。
経済発展に比例して不動産価格も高騰し、ジャカルタにおけるサービスアパートメントの価格は高騰を続けた。一方でインドネシアでは、外国人が不動産を購入することに対する規制が厳しく、2015年ごろまで不動産投資の対象としてあまり注目されていなかった。
しかし転機が訪れる。ジョコ・ウィドド大統領が2015年、外国人の住宅所有に関する政令を発布し、それまで25年間としてされていた外国人の不動産使用権を30年に変更し、さらに延長や更新により最大有効期間が80年間まで認められることとなった。
外国人の住宅所有に関する政令の改正は実に19年ぶりだった。ただ一方で、最低購入価格という概念が取り入れられている。外国人が一戸建て住宅やアパートメント・マンションを購入する場合の最低価格を意味する。これは州ごとに設定されており、例えば首都ジャカルタの場合は一戸建てで100億ルピア(約8400万円)、アパートやマンションの区分所有で50億ルピア(約4200万円)だ。
首都ジャカルタを選ぶかリゾートを選ぶか
インドネシアは約1万3000もの島を国土に有する島嶼国だ。人口の最大密集地は首都ジャカルタがあるジャワ島、その西にはインドネシア国内で最大の面積を誇るスマトラ島、東にはリゾート地としても日本人を含む外国人から人気が高いバリ島やスラウェシ島などがある。
ではどの地域が不動産投資の観点から有望か。一般的には今後の成長性や現在の不動産価格の伸び率などを考慮して、ジャカルタ首都圏、そしてバリ島などのインドネシア東部にあるリゾート地とされる。
首都ジャカルタにおいては現在、地下鉄区間を含んだジャカルタ都市高速鉄道(MRT)が建設中だ。完成すればインドネシア初の地下鉄の開通となる。2017年12月時点では2019年に開業予定とされており、現在ジャカルタ中心部で急ピッチに開通工事が進んでいる。
このジャカルタ都市高速鉄道のルートがジャカルタの今後の不動産投資の注目エリアを絞る上で重要となる。このジャカルタ都市高速鉄道のルートは、首都ジャカルタを目抜き通りに沿って北から南に突っ切るものだ。全長は約24キロで、2019年にまず約16キロ(13駅)、2020年に約8キロ(9駅)が開通予定となっている。
ジャカルタなら北部と南部に大きな期待感
このルートの中でも特に注目したいのが、北部の起点の南部の起点の周辺エリアだ。
近年、ジャカルタ北部は巨大ショッピングモールなどの誕生などで発展が著しい。住環境面では特に複数棟を有する高級コンドミニアムなどの建設が盛んで、居住人口も年々増え続けている。一方で、金融・商業エリアの中心地である中央ジャカルタエリアからは距離があり、タイと同様に渋滞も激しいジャカルタでは交通アクセスがネックとなっていた。
しかしそれでも、ジャカルタ第2の中心地としてショッピングセンターや娯楽施設などが建設され、従来の中心地とは一線を画す形で急激な発展を遂げてきた。地下鉄という新たなインフラが北部エリアと接続されることによる期待感が大きいことはうなずける。
一方で南部の起点となる駅の周辺は高級住宅街エリアと言える。在留外国人にも人気のエリアで治安も良く、ジャカルタの在留邦人も多数居住している。北部とは多少異なり、一戸建てのニーズは今後さらに増えていくものとみられている。このエリアも北部と同様、これまでは中心部へ向かう際には渋滞に悩まされてきた経緯がある。
成長続くミャンマーや高成長維持のカンボジア
ここまで、特に東南アジアにおいて不動産投資の期待感が大きいタイとインドネシアの最新事情について解説してきた。一方で、タイやインドネシア以外の国に対する不動産投資への関心も年々高まっている。
国際通貨基金(IMF)経済見通しより、経済成長率という視点から東南アジア各国を眺めてみる。例えば民主化が進むミャンマーは2016年に6.3%という成長率を記録し、2017年には7.5%、2018年には7.6%としばらくは堅調な発展が続く見込みだ。現在は外国人の不動産購入には高いハードルがあるものの、いずれ規制緩和が実施された後に対する期待感は大きい。
2016年に7.0%というASEANで最も高い成長率を記録したカンボジアは、成長率予測では2017年に6.9%、2018年に6.8%と微減するものの、しばらくは域内では高い成長率を維持するという見方も多い。カンボジアでは2010年に施行された外国人区分所有法により、総占有率が70%と超えない範囲内でコンドミニアムの区分所有が可能になっている。一方で、たびたび現地報道などで不動産投資詐欺などの事件も報道されており、状況を静観している投資家も一定数いるのも現状だ。
そのほか、既に国民の所得水準も高いシンガポールやマレーシアにも不動産投資の目は依然として向いている。そしてまだまだ発展途上のラオスの将来性に期待している不動産投資家も増えてきている。
最新情報の入手と現地視察による肌感覚は当然必須
期待感が大きい東南アジアへの不動産投資だが、注意しなければいけないのは、日本語で読むことができる各国のニュースや情報は決して常に最新のものとは言えず、量も十分とは言えない点だ。
不動産投資を行うに当たっては当然とも言える現地視察や英語などでの情報収集を通じて、肌感覚も踏まえた上で賢い選択をすることが必須と言える。
文・岡本一道(経済・金融ジャーナリスト)
【関連記事 PR】
・【初心者向け】ネット証券おすすめランキング
・ネット証券比較――手数料、ツール、シェア数ランキング
・ネット証券会社比較 手数料の安い4社
・証券会社のネット口座開設数ランキング1位は?上位5社
・ネット証券会社のシェアランキング1位はSBI証券