ラーメン店運営大手の幸楽苑は今期、「台風」と「新型コロナウイルス」という二重の痛手を受けている。今回発表した業績予想の修正では、通期の損益を黒字から赤字に修正した。新型コロナウイルスの終息の見通しがつかない中、厳しい状況が続く。
最終損益を4億円の赤字に下方修正
幸楽苑ホールディングスは3月9日、通期業績予想の修正に関するお知らせを出し、売上高・営業利益・経常利益・純利益のすべてを前回予想から下方修正した。詳細は以下のとおりだ。
売上高:420億円(修正前)→380億円(修正後)
営業利益:21億円(同上)→6億円(同上)
経常利益:20億円(同上)→8億円(同上)
最終損益:11億円(同上)→マイナス4億円(同上)
通期で赤字になれば、2期ぶりのことだ。前期は10億900万円の黒字に転換していただけに、株主の落胆は大きいだろう。しかし今期の業績悪化は、不可抗力の「台風」と「新型コロナウイルス」が主な要因だ。決して自社店舗の運営力が落ちたわけではない。
現役の要因を詳しく見ていこう。
減益の要因①:台風19号で被害――工場の停止、店舗の臨時休業など
幸楽苑の減益要因の1つは、2019年10月の台風19号だ。この台風での水害によって幸楽苑の郡山工場は操業を停止し、この工場の管轄店舗が一時休業に追い込まれた。食材の供給停止で240店舗が臨時休業し、店舗の損壊によって休業に追い込まれた店舗も11店舗に及んだ。
操業再開や営業再開に向けた取り組みが、急ピッチで行われた。幸楽苑は10月12日に起きた川の氾濫による浸水被害を受けて、翌日の10月13日に緊急対策本部設置を設置。東京オフィスと工場をテレビ会議でつなぎ、社長を中心に課題を早期に明確化したことで、迅速な再開を実現した。
しかし、休業期間中のダメージは大きかった。台風19号は、売上高を少なくとも約10億円減少させたという。
減益の要因②:新型コロナウイルスの感染拡大――客数が急激に落ち込む
もう1つの減益要因は、新型コロナウイルスの感染拡大だ。幸楽苑は通期業績予想の修正に関するお知らせの中で、客数が2月中旬ごろから急速に落ち込んでいることを説明し、「3月はさらなる減収が見込まれる状況」と述べている。
幸楽苑に限ったことではないが、新型コロナウイルスは飲食業界に深刻なダメージを与えており、各社のキャッシュフローが懸念される。終息の見通しが立てばキャッシュをいくら確保する必要があるか予想できるが、今はそれさえ見えない状況だ。
幸楽苑は1月末、新型コロナウイルス感染症対策の一環で、来店客と従業員の感染リスクを軽減するための措置として、勤務中の店舗スタッフにマスク着用を推奨することと、従業員の出張を全面的に禁止することを発表している。
コロナ終息後、「収益重視型経営」で業績回復を果たせるか?
新型コロナウイルス問題が続く中では、なかなか攻めの戦略は打ちにくい。幸楽苑は、ただ手をこまねくしかないのだろうか。同社経営陣の今後の判断が注目されることになるだろう。
幸楽苑は収益改善に向けて低収益店舗の閉店に乗り出しており、こうした取り組みが新型コロナウイルスの終息後に結実し、同社の業績回復に寄与する可能性は十分ある。幸楽苑は、この取り組みを「収益重視型経営」(プロフィット・ドリブン)と呼んでいる。
新型コロナウイルス問題の終わりは見えないが、日本を代表する外食企業の底力に期待したいところだ。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)
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