新型コロナの感染拡大が、世界的な株価の大暴落を引き起こした。その影響を大きく受けたのが、ソフトバンクグループだ。同社は最大4.5兆円の資産売却を発表し、最大30億ドルのWeWork株式公開買付を取りやめることを決定した、この狙いは何だろうか。

株価が5,000円台から2,000円台まで下落

ソフトバンクグループの株価は、2月中旬から3月初旬にかけては5,000円台で推移していた。しかし、3月19日の終値は2,687円と2,000円台まで落ち込み、前日比でマイナス17%と上場以来最大の下落率となった。

ソフトバンクグループの株価下落には、同社が保有している株式の株価下落に対する株主の懸念が背景にある。ソフトバンクグループは有望な企業への投資を通じて、収益を高めてきた。そのため、今回の新型コロナウイルス感染拡大が引き起こした大恐慌のような事態が起きると、投資先の企業の業績悪化などによって、保有株式の株価が大きく値下がりしてしまう。

ソフトバンクグループはWeWork問題によって1兆円の営業赤字を2019年7~9月期決算に計上していたが、その後は業績回復の期待感があった。米国の通信子会社スプリントとTモバイルの合併が最終段階に入ったことなどがその一因で、同社会長兼社長の孫正義氏も「潮目が変わった」と自信を示した。

そんな中で新型コロナウイルス問題が起きたことで、ソフトバンクグループは再び厳しい局面を迎えた形だ。

保有資産の売却と自社株買いで株価は4,000円台まで回復!

このような状況の中、ソフトバンクグループは3月23日に、最大4兆5,000億円の保有資産の売却・資金化を取締役会で決定した。売却する資産の多くは、保有株式とされている。調達した資金のうち最大2兆円は「自社株買い」のほか、バランスシートを強化するための負債の削減に充て、財務状況を改善する狙いだ。

孫氏は、この自社株買いを「当社史上最大の自己株式取得」と表現している。自社株買いとは自社が発行した株式を買い戻すことで、一般的には株式市場において投資家に喜ばれるものだ。ソフトバンクグループは今回の自社株買いで、自社株式の株価下落に歯止めをかけようとしているのだろう。

今回の資産売却と自社株買いの発表後、同社の株式は3月25日に4,000円台まで回復している。

売却する保有株式は全体の15%以上

ソフトバンクグループが保有する株式の価値は、今回の資産売却に関する発表時点で27兆円とされる。主な保有株式には、中国のアリババ集団やソフトバンク、米スプリント、英アーム、ソフトバンク・ビジョン・ファンドなどがあり、今回の資金調達ではその15%以上を売却することになると考えられる。

孫氏はこれまで決算発表会の場でたびたび「株主価値こそが重要」と強調してきたが、今回の売却で株主価値は大きく下落することになる。自社株式の株価下落に歯止めをかけるために致し方ない決定だったのだろうが、これまでの考え方を曲げたという見方もできそうな今回の決定を、株主が今後どう受け止めるのかが気になるところだ。

3月27日には、有力投資先の1つであるイギリスの衛星通信スタートアップ企業ワンウェブが新型コロナウイルスの影響による資金調達難で経営破綻し、ソフトバンクグループに対する投資家からの信頼がさらに揺らぐ状況となっている。

さらに揺らぐソフトバンクへの信頼感 WeWork株式の公開買付も中止へ

また、4月2日に条件が充足されなかったとして、最大30億ドルのWeWork株式に対する公開買付の取りやめを発表した。充足されなかった条件の中には、「新型コロナウイルス感染症に関連して、WeWorkとその事業への制約を課すこととなる世界各国の政府による複数の新たな政策が存在していること」との文言が含まれており、コロナの影響が伺える。

公開買付を取りやめたため、ソフトバンクは2020年3月期に計上する見込みだった営業外損失が計上されないことになった。損失がなくなったとはいえ、WeWork側との約束を反故にしたことは事実であり、今後の両社の関係悪化は避けられないだろう。

孫氏の言葉を借りれば、新型コロナウイルスにより「潮目はまた変わった」と言えるだろう。この危機をどう乗り切るのか、孫氏の手腕が問われる。

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)
 

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