2017年4月に改正資金決済法(仮想通貨法)が施行されてから、初めての確定申告シーズンが訪れる。ビットコインを代表格とする仮想通貨はこの法律により「貨幣」に認定され、金融庁は仮想通貨取引所を登録制にすることで監督機能も強化した。脱税行為などに対する国税庁の監視体制も一層強化されるものとみられる。

確定申告をしなくても良いケースがあるが

ビットコインで得た利益が確定申告の対象となるのかならないのかについて、国税庁がウェブサイト上で「ビットコインを使用することで生じた利益は、所得税の課税対象となります」と説明している。

つまり、ビットコインは確定申告において申告対象となるということだ。

一方で確定申告をしなくても良いケースがある。確定申告では、副収入で20万円以上の所得を得ていない場合は確定申告の対象者にならない。ビットコインなどの仮想通貨の場合でも同様だ。つまりビットコインなどの仮想通貨を使って生じた所得が年間20万円以下で、かつ企業からの給与支給を受けているサラリーマン(※年末調整済みの人)であれば、確定申告の必要はない。

一方でこの副収入の20万円という基準額については、仮想通貨売却などで得た所得のほかにも例えばアフィリエイトなどで生じた所得があった場合は、合計して比較される。例えば、ビットコインの売却で生じた所得が15万円で、基準額の20万円には満たない場合だったとしても、アフィリエイトで生じた所得が10万円あれば、両方を合計した所得金額が25万円となるので、確定申告をする必要が生じるということだ。

また、専業主婦や学生など給与所得がない人の場合は、年間の所得が38万円を超えていない場合に限っては確定申告をする必要がない。給与所得以外の所得については、38万円までは基礎控除されるからだ。ビットコインなどの仮想通貨を使って生じた所得についても同様の扱いとなる。

仮想通貨による「所得」と判断されるケースは?

ビットコインなどの「所得」についての定義だが、仮想通貨を所有しているだけでは所得として申告する義務は発生しない。国税庁は申告対象となるケースについてウェブサイト上で例を挙げて説明している。具体的な内容について説明していく。

国税庁はまず、「仮想通貨の売却」による所得が確定申告の対象になると説明している。これは、仮想通貨を日本円などに換金した場合のことを指す。実際には「売却した価格」から「仮想通貨を取得した価格」を差し引いた額が所得として計上されることになる。

具体的な例を挙げて考えてみる。2ビットコインを100万円で購入したあとに、その2ビットコインを売却して日本円で110万円に換金したとする。その場合は、110万円(売却した価格)から100万円(仮想通貨を取得した価格)を差し引き、残った10万円が所得金額となる。

また「仮想通貨での商品の購入」においても、「所得」が発生することになると説明されている。具体的には、自ら保有しているビットコインなどの仮想通貨で商品を購入した際、商品価格から仮想通貨の取得金額を引いた差額が所得として計算される。

例えば、2ビットコインを100万円で購入したあと、200万円の商品を2ビットコインで買った場合は、200万円(商品価格)から150万円(取得金額)を引いた50万円が所得金額として計算される。

ほかの仮想通貨の交換やマイニングでも「所得」に

ビットコインなどの仮想通貨とほかの仮想通貨を交換したときに生じた所得についても、確定申告をしなければいけない対象となる。

仮想通貨はビットコインのほかにも、イーサリアムやリップル、ライトコイン、ダッシュ、モネロなどがあり、その数は1500種類以上あると言われている。現在はビットコインとほかの仮想通貨の交換も頻繁に行われるようになっている。

具体的には、保有している仮想通貨を使ってほかの仮想通貨を購入した場合においては、購入した仮想通貨の購入金額(時価)から保有する仮想通貨の取得金額を差し引いた額が取得金額となる。

例えば、2ビットコインを100万円で購入したあとに、2ビットコインでイーサリアムを時価120万円分購入したとする。この場合は120万円(購入した仮想通貨の購入金額)から100万円(保有する仮想通貨の取得金額)を差し引いた20万円が、取得金額となるわけだ。

仮想通貨取引の計算処理を請け負い、報酬として仮想通貨を得るマイニング(採掘)という方法によってビットコインなどを取得した場合も、確定申告の対象となる。この場合はマイニングで得た仮想通貨の収入(取得時点の時価)と必要経費を差し引いて、所得金額を算出する。

仮想通貨による所得はどの所得に分類されるか?

確定申告を行う際、所得は全部で10種類に区分される。具体的には、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得、一時所得、雑所得の10種類だ。

このうち、ビットコインなどの仮想通貨の売却や商品の購入により生じた所得は、確定申告では「雑所得」または「事業所得」に分類される。

国税庁のホームページで「ビットコインを使用することにより生じる損益(邦貨又は外貨との相対的な関係により認識される損益)は、事業所得等の各種所得の基因となる行為に付随して生じる場合を除き、原則として、雑所得に区分されます」と記載されていることがその根拠となる。

事業所得として申告できると、必要経費などの算入範囲が広がる「青色申告制度」で最高65万円までの控除を受けることができ、税負担の面で有利になるなどのメリットがある。一方で営利性や有償性、継続性・反復性などが一定程度なければ事業所得としては認められない。この事業所得の定義の根拠は、最高裁判所の昭和56年判決で示された内容だ。

「雑所得」か「事業所得」か

最高裁は判決の中で、事業所得の定義について「自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性・有償性の有無、継続性・反復性の有無、自己の危険と計算における事業遂行性の有無、その取引に費やした精神的・肉体的労力の程度、人的・物的設備の有無、その取引の目的、その者の職歴・社会的地位・生活状況などの諸点を総合して、社会通念上事業といい得るか否かによって判断する」としている。

そのため、コンピュータや設備の冷却装置を購入し、電気代などが掛かって行われるマイニングなどによる所得でなければ、事業所得として認められないというのが現在の一般的な見方だ。ビットコインなどを複数回売却したり、商品・サービスを数回購入したりしただけで生じた所得については、「雑所得」と判断するのが妥当と言ってよいだろう。

一方で、ビットコインなどの仮想通貨で生じた所得の確定申告手続きについては、まだまだ不透明な部分も多い。税務署や税理士に確定申告の前に相談するのも有効だ。

ビットコインに関する課税率はどれくらいか?

ビットコインなどの仮想通貨で得た所得を確定申告する際に気になるのが、その所得税率だ。仮想通貨の売却や商品購入で得た取得は「雑所得」か「事業所得」として申告する必要があることは前項で説明した。この雑所得と事業所得は「総合課税」の対象となる。総合課税の対象となると、他の所得と合計して税額が計算される。

所得税率の計算には累進課税制度が採用されている。所得額が大きくなればなるほど、税率も高くなるという仕組みだ。現在はその所得金額によって5%~45%の間で7段階に分けて数値設定されている。

2018年1月時点の所得税率は、195万円以下が5%(控除額0円)、195万円~330万円が10%(控除額9万7500円)、330万円~695万円が20%(控除額42万7500円)、695万円~900万円が23%(63万6000円)、900万円~1800万円が33%(控除額153万6000円)、1800万円~4000万円が40%(279万6000円)、4000万円を超えた場合が45%(控除額479万6000円)となっている。

仮想通貨関連の確定申告をする際に必要なデータは?

実際にビットコインなどの仮想通貨で生じた所得を確定申告する際には、国税庁が定めた申告書への記入や源泉徴収票の添付のほか、いくつか必要なものがある。具体的にはビットコインなどの仮想通貨の入出金記録を記載した明細書のほか、仮想通貨を保管するウォレット(電子財布)の残高や取引履歴のページ記録だ。

入出金記録の明細書には、ビットコインなどの仮想通貨を購入するときに日本円などを振り込んだ記録や、仮想通貨を日本円に換金したときの記録が含まれる。またウォレットの残高や取引履歴については、仮想通貨取引所の「ビットフライヤー(bitFlyer)」の「コインチェック(Coincheck)」のサイト内からデータを取得する形となる。

確定申告をすることを忘れるとどうなるのか?

2018年の確定申告の期限は2月16日(金)から3月15日(木)となる。この期限内に確定申告を行わなかった場合は、期限終了後に自己申告で確定申告を行った場合と税務署から指摘された場合で、追加で支払わなければならない額が異なる。

まず確定申告の期限終了後に自主的に申告を行った場合は、納税すべき額に5%が加算された額を支払う形となる。自主的に申告を行わずに、税務署から指摘を受けた場合は納税すべき金額によって加算率が異なる。その場合、50万円までは15%、50万円を超える部分については20%が加算される。

また確定申告の最終期限日である3月15日は、納税金額の支払い期限でもある。期限を越えて税金の支払いが行われなかった場合は、原則として期限を越えてから2カ月以内の場合は年7.3%、2カ月以上が経過した場合は年14.6%の延滞税が課されるので注意が必要だ。

そのほか、故意に確定申告をしないなどの悪質なケースの場合、脱税行為として判断されると、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、またはその両方が併科される。

文・岡本一道(経済・金融ジャーナリスト)

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