上場株式等にかかわる配当所得の課税方法には、申告不要制度、総合課税、さらには申告分離課税の3つがあり、納税者がどの形態で申告するかを選択することになっています。
また所得税と住民税で異なる課税方法を選択することも可能ですが、2021年度の税制改正により、その申告方法が簡易化されることとなりました。改正によってどのように変わったのか、また申告の際の留意点についても解説します。
上場株式等の配当所得等の申告方法の簡素化

上場株式等(一定の大口株主等が受けるものを除く)にかかわる配当所得等の申告については、所得税と住民税で異なる課税方法を選択することが可能です。しかし、その際に所得税の確定申告書を提出したうえで、別途、住民税の申告書を提出する必要があります。
これについて、2021年の税制改正により、確定申告書だけで、所得税そして住民税両方の申告手続きが完結できるよう、確定申告書に個人住民税にかかわる附記事項が追加されることとなりました。この改正は、2022年1月1日以後に提出する場合において適用されます。
上場株式等の配当所得における課税方法
上場株式等の配当所得における課税関係は、以下の表のとおりです。また、表内および以降に記載する税率について、特別復興所得税については考慮しないものとします。
源泉徴収税率 | 配当を受け取る際に所得税15%、住民税5%が源泉徴収される | |
課税方法の選択肢 | 申告不要制度 | 源泉徴収にて課税関係が終了する。 |
総合課税 | 配当控除の適用がある。(※) 確定申告書の提出が必要となる。 | |
申告分離課税 | 上場株式等の譲渡損失との通算が可能である。 確定申告書の提出が必要となる。 |
(※)ただし、外国株式やJ-REITなどの投資法人、他の課税方法を選択した株式等にかかわる配当や分配金については配当控除の対象外となります。
所得税と住民税で異なる課税方法を選択する意味
上場株式等の配当所得は受取時に所得税15%および住民税5%の税率で源泉徴収され、配当所得の金額にかかわらず申告する必要はありません。しかし、総合課税による確定申告をして配当控除の適用を受けた場合、源泉徴収された所得税が還付されるケースもあります。
配当控除とは、配当所得に控除率を乗じた金額を税額から差し引く税額控除です。例えば所得税率10%の年に総合課税による申告を行った場合、配当所得にかかわる税額部分については10%(所得税率)−10%(配当控除率)=0%となり、配当にかかわる税負担はなしということになります。そしてこの場合、配当を受け取った際に税率15%で源泉徴収された所得税については、還付を受けることができます。
一方、住民税については総合課税の税率は一律10%、配当控除率は2.8%(課税総所得金額等が1,000万円以下の場合)であることから、総合課税による申告を行うと、実質の税負担率は10%-2.8%=7.2%となります。配当を受け取る際の住民税の源泉徴収税率は5%であることから、住民税においては確定申告を行うことによって2.2%(7.2%-5%)増えることとなります。
なお、配当所得等について申告するかどうかは、1回に支払を受けるべき配当等の額ごと(源泉徴収選択講座の配当などについては口座ごと)に選択できます。
総合課税を選択した場合と申告不要制度を選択した場合の税負担の比較については以下のとおりですので、確定申告を行うかどうかの判断の目安にしてください。
所得税の税負担の比較
課税所得金額等 | 総合課税を選択した場合 | 申告不要制度を選択した場合 | 税負担の比較 | ||
所得税率 | 配当控除率 | 実質税負担率 | |||
195万円以下 | 5% | 10% | 0% | 源泉徴収税率15% | 確定申告を行った方が有利 |
195万円超330万円以下 | 10% | 0% | |||
330万円超695万円以下 | 20% | 10% | |||
695万円超900万円以下 | 23% | 13% | |||
900万円超1,000万円以下 | 33% | 23% | 確定申告をしない方が有利 | ||
1,000万円超1,800万円以下 | 33% | 5% | 28% | ||
1,800万円超4,000万円以下 | 40% | 35% | |||
4,000万円超 | 45% | 40% |
住民税の税負担の比較
課税所得金額等 | 総合課税を選択した場合 | 申告不要制度を選択した場合 | 税負担の比較 | ||
住民税率 | 配当控除率 | 実質税負担率 | |||
1,000万円以下 | 10% | 2.8% | 7.2% | 源泉徴収税率5% | 確定申告をしない方が有利 |
1,000万円超 | 10% | 1.4% | 8.6% |
所得税においては、課税総所得金額が900万円以下であれば、総合課税の方が税率は低くなりますが、住民税については、所得金額にかかわらず確定申告をしない方が有利となります。
総合課税か申告不要の判断は税額だけではない
住民税において確定申告をするかどうかの判断基準は税額だけではありません。自営業者や年金所得者など、国民健康保険や介護保険、後期高齢者医療制度の保険料、高齢者の医療費の窓口負担割合などは住民税の所得金額などを基に決定されます。仮に住民税で配当所得を申告不要とした場合は、それは所得金額などに含まれないことになります。
扶養親族の税負担への影響に注意
ただし、扶養控除の対象となる子どもがいる場合などでは注意が必要です。仮に扶養控除の対象となる子ども(22歳、大学生)が上場株式等の配当所得50万円を申告した場合における、父親の所得税にかかる影響は以下のとおりです。ちなみに子供には配当所得以外の所得はないものとします。
【子どもに対する所得税および住民税】
・所得税
配当所得:50万円(合計所得金額)
基礎控除:48万円
課税所得金額は50万円-48万円である2万円となり、それに応じた税率(5%)による所得税額は1,000円となります。しかし、50万円の10%である5万円の配当控除を受けることができるため、支払う所得税額は0円となり、配当を受け取った際に源泉徴収された金額が還付されることになります。
・住民税
配当所得:50万円(合計所得金額)
基礎控除:43万円
課税所得金額は50万円-43万円の7万円となり、住民税率10%を乗じた7千円が住民税額となります。しかし、50万円の2.8%である1万4,000円の配当控除を受けることができるため、支払う住民税額は0円となり、配当を受け取った際に源泉徴収された金額の還付を受けることができます。
・父親の所得税(税率20%と仮定)
子どもが確定申告を行うと、合計所得金額が48万円超になるため、扶養控除の対象外となります。しかし、子どもが確定申告不要を選択することで、父の扶養控除の対象となり、父親の所得税は63万円(特定扶養親族控除)×20%である12万6,000円、住民税においては45万円(特定扶養親族控除)×10%である4万5,000円の合計17万1,000円の税負担が軽減できることとなります。
子どもは10万円が源泉徴収されていますが、父親の税負担軽減額である17万1,000円よりも少ないことから、世帯単位で見れば、子どもが申告しないことで7万1,000円の税負担となります。
このように、所得税の申告をして還付を受ける本人の税負担は軽くなっても、その人を扶養親族の対象としている親族の税負担が増える可能性があることに注意が必要です。
なお、生計同一親族が申告し、合計所得金額が48万円を超えることで影響を受けるものについては、扶養控除のほかにも、配偶者控除、寡婦控除、ひとり親控除、障害者控除、所得金額調整控除などがありますので、これらの控除の対象となる方が申告しようとする際には、世帯単位での税負担を計算したうえで判断するようにしましょう。
源泉徴収選択口座の上場株式等の譲渡所得
特定口座内で生じる所得に対して源泉徴収することを選択した「源泉徴収選択口座」の上場株式等の譲渡益については、所得税15%、住民税5%で源泉徴収されており、確定申告は不要です。また、上場株式等の譲渡損が生じたとしても、同一口座内の譲渡益や配当所得等と通算されれば、税額は精算されます。
その口座内で通算してもなお残る損失については、分離申告課税による確定申告を行えば、他の口座の譲渡益や配当所得等から差し引くことが可能です。さらに、それでも残った損失については、繰り越して、翌年以後3年に渡り、確定申告により上場株式等の譲渡益や配当所得から差し引くことができるため、所得税はもちろんのこと、住民税の負担の減少につながります。
住民税の所得金額等に注意
ただし、ここでも住民税の所得金額等に注意する必要があります。上述のとおり、国民健康保険料などは、他の口座との通算後や繰越控除後の住民税の所得金額等を基に決定されるため、他の口座との通算後や繰越控除後に所得が残れば、総所得金額等に合算され、所得税や住民税の還付金以上にこれらの保険料が増額する可能性もあります。
また、扶養控除等の対象となる親族の所得は繰越控除前の合計所得金額となることから、他の口座との通算や繰越控除の申告については、申告により減少する税額と、増加する国民健康保険料や扶養控除の適用可否による影響を総合的に検討し、最終的に源泉聴取選択口座であっても、「所得税については確定申告を行うが、住民税については申告しない」もしくは「所得税および住民税ともに確定申告を行わない」などを判断する必要があります。
最終的な判断は社会保険料負担や生計同一親族への影響を考慮
2021年度の税制改正により、2021年度分以後の上場株式等の配当所得や源泉徴収選択口座の譲渡所得については、所得税で確定申告を行い、住民税ではこれらの所得の全部について申告不要とする場合、所得税の確定申告書の提出のみで完結できるようになります。
このように手続きが簡素化される一方で、一旦申告を行うと、更生の請求などで課税方法を選択することはできません。これらのことも踏まえて、社会保険料の負担や生計同一親族への影響なども含めて慎重に判断する必要があるといえるでしょう。
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