リクルートグループが毎年発表している「トレンド予測」。集積したデータから予測される、各界の動向や変革の兆しをキャッチーな言葉で表現し、それぞれの業界の活性化や課題解決に貢献することが目的だ。
2010年から始まり11回目を迎えた今年、飲食領域ではトレンドキーワードとして「おもて無グルメ(おもてなしグルメ)」が発表された。日本人にはなじみ深い「おもてなし」に、あえて「無い」というエッセンスを加えた理由とは!? ホットペッパーグルメ外食総研・上席研究員の稲垣昌宏氏に話を伺った。
変わりゆく消費者のニーズと外食業界の課題
消費者が飲食店に求めることといえば、大きく分けると「料理の美味しさ」、そして空間や設備、接客などを含めたいわゆる「サービスの質」の2つだろう。一体、どちらがより求められているのか? リクルートが2019年11月に行ったインターネット調査では、外食をする際に重視するものとして「料理(調理技術、食材)を重視する」という声が全体の64.9%を占めた。つまり消費者は「サービス」よりも「料理」を飲食店に求めているというわけだ。
一方、近年の外食業界は「サービス」の在り方について見直す動きがみられ、業務効率化の一環としてサービスを簡略化する飲食店も増えつつある。ここ数年の人件費の高騰により必要に迫られて行っている面もあるが、キャッシュレス決済やモバイルオーダーなど、業務効率化を可能とする新しいテクノロジーが次々と誕生しているのも大きな要因といえるだろう。
これらを背景に、消費者が求める「料理の美味しさ」を担保しつつ、サービスを簡略化することで、より安価に食事を楽しめる店舗が人気を獲得するだろうと稲垣氏は予測。「おもて無グルメ」とネーミングし、2020年の飲食トレンドとして発表した。
「消費者は、すべてのサービスをいらないものだと考えているわけではなく、例えば、ファミリーレストランの深夜料金などは、そこに人件費がかかることまで理解したうえで必要なサービス料だと受け入れています。一方で、お通しのようにサービスの価値がわかりにくいものは必要性が薄いと感じるようになってきています。そうした消費者意識も鑑みて、飲食店経営者は自店舗にとっての『価値が高いサービスと低いサービス』を精査することが重要になってきます」
簡略化・効率化の先に、客を楽しませるフックを加える
自店舗のサービスを見直し、料理のクオリティーとコストパフォーマンスの高さから客の支持を得た「おもて無グルメ」の好例とも呼べる店舗のひとつに、東京都世田谷区のフレンチレストラン『ルナティック』がある。券売機で食券を購入することで料理の注文を行い、配膳と下げ物も客が行うというセルフ形式の店舗だ。オペレーションにかかる人件費が下がった分、「牛フィレステーキフォアグラのせ」(1500円)や「ロブスターのロースト」(1500円)など、本格的なフレンチ料理を低価格で提供し、客の満足度を高めることに成功した。
また、東京都品川区の『炭火焼ホルモン ぐう』は、2016年から3階部分を完全個室のセルフ焼き肉店『GU3F』として営業。1日2組限定の完全予約制で、品書きは前菜から締めまでボリュームたっぷりの5000円コース一本で勝負(飲み放題つき)。食事の提供と下げ物はスタッフが行うものの、今まで3階部分に割いていた一人分の人件費をカットすることに成功した。
「『GU3F』はプライベートな空間でセルフ焼き肉が楽しめるという付加価値があります。『ルナティック』にしても、食券でフォアグラを注文できてしまうという面白さと気軽さがある。単純にサービスを“省く”という発想ではなく、簡略化しながらも、消費者に新しい価値を提供していくことが重要なのだと思います」
「おもて無グルメ」は、例えるなら「LCC」のような存在
稲垣氏は「おもて無グルメ」の展望について次のように語る。
「今後、消費者は『おもて無グルメ』を実践する店舗と、サービスと料理の両方で高いクオリティーの店舗を使い分けるようになると考えています。例えるなら、LCCのような格安航空会社と、JALやANAなどのフルサービスの航空会社をシーンによって選ぶようなイメージです」
また、外国人観光客の集客、海外出店をするようなケースでも「おもて無グルメ」は相性がいいと言う。
「海外にはチップ文化があるように、サービスの価値と料理の価値を分けて考えている方が多くいます。そうした外国人と『おもて無グルメ』は相性がいいはず。外国人を集客したい、または海外出店を計画している店は、コンセプトの一つとして有効なのではないでしょうか」
昨年は軽減税率制度がスタートし、消費者の間で外食の価値を改めて見直す動きもみられた。そうした時代の流れの中で生まれた「おもて無グルメ」は、外食シーンに新たな価値観をもたらす強烈なキーワードになるかもしれない。今後の動向にも注目していきたい。
文・高橋健太/提供元・Foodist Media
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