「日本人は親切だ」という記事やコメントをインターネットやニュースで見かけることがある。親切な人が多い国は他にもたくさんあるはずなのに、なぜ日本だけが特別視されるのか。「日本人親切説」は本当なのだろうか。欧州在住の筆者の視点で探ってみたい。

日本人は親切なのか?

「日本人は親切!」と絶賛する外国人は、観光客が圧倒的に多いようだ。実際に住んでみると、「親切な人とそうでない人がいる」と感じる人も少なくないというが、それは世界中どこでも同じだろう。

興味深いことに、日本人親切説が定着している一方で、正反対の評価もある。英慈善事業支援財団CAFが世界125ヵ国の慈善活動度を評価した「世界寄付指数(World Giving Index)2019」によると、日本人の親切度は107位と驚くほど低い。「見知らぬ人を助ける」という評価項目では、何と最下位だった。

では、日本人の親切さが世界で際立っている理由は何だろうか。一つ目は、日本人の親切に根差す本質が特殊であること。日本人の親切は、特有の「細やかな気遣い」「礼儀作法」「謙虚さ」「秩序を守る国民性」などによるものではないだろうか。

二つ目は、日本に対する好意的な評価だ。日本食から観光スポット、ファッション、映画、アニメ・漫画といったサブカルチャーまで、日本が発信する文化や情報に関心や好感を抱く外国人は多い。日本に対する「ちょっとした贔屓目」も、プラス評価につながっているのかもしれない。

海外在住者が感じる「日本人の親切」3つ

海外移住者である筆者が感じる、日本人の親切を3つ挙げてみよう。

1,他人に極力迷惑をかけない

日本の親は子どもが小さい頃から、「人様に迷惑をかけるな」と躾ける。そこで培われた「自分が手を抜けば周囲に迷惑がかかる」という考え方は、社会に出ても変わらない。この日本の民族文化ともいえる優しさを痛感したのは、学生時代のアルバイト先だ。シフトに入っていた6人中、4人が同時に風邪をひいてしまったのだが、風邪薬を飲んで出勤してきたのは日本人の同僚1人だけだった。そのことを後日知り、「連絡してくれたら代わりに入ったのに」という筆者に、彼女はこう言った。「みんなそれぞれ予定があるし、風邪ぐらいで迷惑をかけたくない」。それを聞いていた他の同僚は「まったく理解できない」と首をかしげていたが、筆者はそこで「これは日本風の親切なのだな」と思った。そして、自分自身も彼女の気持ちが痛いほどわかった。

2,道を尋ねたら目的地まで案内してくれる

Google Mapをフル活用しても道に迷うほど極度の方向音痴の筆者は、人に道を尋ねることが多い。日本で道を尋ねると「同じ方向ですから」などと言って、さり気なく目的地まで案内してくれる人が少なくない。昔京都を訪ねた際、5分くらい前に道を教えてくれたおじさんが追いかけてきて、「やはり口ではわかりにくいと思うから」とかなり遠回りしてまで目的地に連れて行ってくれたことには恐縮してしまった。

一方で欧州では「Google Mapを見たほうが早いよ」「そこを左、右、右、右で最後に左」など、聞くだけ時間の無駄ということも珍しくない。何度か「案内してあげるよ」と言われて路地裏に連れ込まれそうになったり、突然写真を撮られてそれを売りつけられそうになったりしたこともあるため、道を尋ねる相手は慎重に選ぶようにしている。

3,落とし物が見つかる確率が高い

海外で驚かれる日本人の親切の一つが、「落とした財布を交番に届けてくれる」ことだ。「現金はなくなっていたけれど、とりあえず財布だけは戻ってきた」という話も聞く。筆者が日本人の親切を最も感じたのは、土砂降りの日にデパートに置き忘れた上着を、わざわざきれいに乾かして、アイロンまでかけて保管していてくれていた時だ。対照的に、海外で落とし物や忘れ物をしても戻って来た試しがなく、警察に届けても「期待しないで待っていてね」と言われてしまう。

海外にあって「日本人にはない親切」3つ

海外で長く暮らしていると、日本人にはあまりない親切を感じることもある。

1,重い荷物を持ってくれる

日本でも重そうな荷物をもっている高齢者に声をかける光景は目にするが、海外ではこちらの年齢や性別に関係なく「手伝おうか」と申し出てくれる人が多い。実は、筆者は欧州に引っ越した当時、戸惑いと警戒心から「(重いから)いいです」と断り続けていた。しかし、ある日声をかけてくれたおじさんが筆者の心情を察したのか、「重そうから手伝うんだし、そんな重い荷物を持って逃げられないから心配しなくていいよ」と弾けるような笑顔で諭してくれたことで、それ以来親切を素直に受けるようになった。

2,程よい距離を保ちつつサポートしてくれる

思いついたら後先を考えずに行動してしまう筆者にとって、相手のことを心配しながらも必要以上に干渉しない欧州流の人間関係は心地よく感じる。例えば、筆者が「〇〇するつもりなんだ」と日本の家族や友人に伝えると、根掘り葉掘り質問された挙句、ほぼ確実に猛反対されるのだが、欧州の家族や友人は心配そうな表情を見せながらも、「新しい挑戦だね」とあっさり応援してくれる。そして必ず「困ったら相談してね」と言ってくれる。

たとえ家族や恋人、仕事仲間でも「お互いに気持ちのよい距離」を保ちつつサポートしてくれるのは、「個人の自由を尊重する」という優しさではないだろうか。

3,子連れに優しい

海外ではベビーカーに子どもを乗せた人が公共交通機関を利用していると、周囲が気を使ってベビーカーをそばに置ける席を譲ってくれたり、通りやすいようにスペースを空けてくれたりする。小さい子どもが泣き叫んでも、嫌な顔を見せるどころか一緒にあやそうとしてくれる人が多い。

長女がまだ幼い頃、一時帰国した際にベビーカーに乗せて電車に乗った筆者は、車内の冷ややかな視線と「非常識」という囁きにカルチャーショックを受けた。それ以来、日本ではベビーカーではなくキャリアを使うようにしたが、あれから20年以上が過ぎた現在も「日本は子連れに厳しい国」という声をよく聞く。

それぞれの国にそれぞれの親切がある

あくまで筆者の視点ではあるが、日本と海外の親切について解説してきた。

日本だけが特別親切な国というわけではなく、それぞれの国にそれぞれの親切がある。それに触れた時、「自分が親切にしてもらったように自分も人に親切にしてあげたい」という優しい気持ちが生まれるのではないだろうか。親切が幸福感をもたらすことは、科学的にも証明されている。「日本人だから親切」ではなく、一人の人間として「親切」を習慣にしてみてはいかがだろうか。

文・Allan
国際コンサル企業などの翻訳業務を経て、ファイナンシャルライターに転身。現在は欧州を基盤に、多数の大手金融メディアで執筆活動中。国際経済から投資、資産運用、FinTech、ビジネス、行動経済学まで、広範囲に渡る「お金の情報」にアンテナを張っている

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