Point ・課題をマルチタスクとして認識することがパフォーマンスに良い結果をもたらすことが判明 ・複数の物事を同時に処理することは実際には不可能で、短時間に注意を切り替えながら物事を実行している ・マルチタスクを認識している時の人の瞳孔は大きく開き、集中力と真剣さが高まる マルチタスクは幻想だが役に立つ…らしい。

スマホで動画を見ながら、パソコンをいじり、テレビをチラ見する—。複数の作業を同時に並行して実行する「マルチタスク」は、科学技術の発展にともなってますます重要性を増しているように見えます。

しかし実際には、複数の物事を同時に処理することは不可能だということがこれまでの研究で明らかになっています。一見すると複数の事柄に同時に注意を向けているように見えても、実のところ私たちは、瞬間ごとに一つの対象にしか注意を向けておらず、短期間に注意を切り替えながら物事を実行しているのです。

Psychological Scienceに新しく掲載された論文では、課題をマルチタスクとして認識することと、その認識がパフォーマンスに与える影響を関連づけて論じています。

The Illusion of Multitasking and Its Positive Effect on Performance

研究を行ったのは、ミシガン大学のシャーレナ・スルナ氏、ペンシルバニア大学のロム・シュリフト氏、イェール大学のギャル・ゾーベルマン氏ら。計8,242名の被験者を対象に32種類の実験を行い、マルチタスクに関する認識の違いが、被験者が課題の取り組み方に変化をもたらすかどうかを探りました。その結果、「課題をマルチタスクとして認識しすること」がパフォーマンスに良い影響をもたらすことが判明しました。

実験室で行われたある実験には、162名の被験者が参加しました。被験者は2つのグループに別れて、動物番組の映像を見て、その内容を文章で表すよう指示されました。どちらのグループも取り組んだ課題そのものは同じものでしたが、1つのグループには「記述タスク」と「学習タスク」の2つのタスクが課されるという説明が与えられたのに対し、もう一方のグループにはライティング能力を測定するための1つのタスクが課されるという説明が与えられました。その結果、マルチタスクに取り組んでいると思い込んだ前者は、後者に比べ、クイズの正答率が高く、ライティングの速度が速く、記述内容が正確でした。