株式投資手法のひとつとして米国でよく知られている「ダウの犬戦略」というものを聞いたことはあるだろうか?毎年12月31日にNYダウ構成30銘柄を配当利回りの高い順に並べ、その上位10銘柄を均等に買い付けていく投資戦略を指す。翌年の12月31日には、その時点での配当利回りが高い順にまた並べ替え、新たな上位10銘柄と手持ち分を入れ替える。これを毎年繰り返していく。
株式投資の世界で「いぬ」といえば?
これは「負け犬戦略」と呼ばれることもある。なぜ「負け犬」なのかと言えば、配当利回りが高い株は、値下がりしている株である場合も多いためだ。配当利回りは、「一株当たり年間配当金÷株価」で計算されるため、配当金が前年と変わらなくても、株価が下がっていると配当利回りは上昇することになる。
しかしこの戦略の投資対象は、米国を代表する企業で構成されるダウ指数に含まれる銘柄だ。このため、値下がりしたとしても深刻な経営難には至らないという前提に立ち、むしろ割安な銘柄を買う戦略だともいえる。高い配当利回りを得ながら、割安株の株価上昇も狙っていく手法なのだ。
そして、今年の「ダウの犬」10銘柄は以下の通りだ(配当利回りの高い順)。
- ベライゾン・コミュニケーションズ <VZ> (電気通信)
- アイビーエム <IBM> (情報技術)
- ファイザー <PFE> (ヘルスケア)
- エクソン・モービル <XOM> (エネルギー)
- シェブロン <CVX> (エネルギー)
- メルク <MRK> (ヘルスケア)
- コカ・コーラ <KO> (生活必需品)
- シスコ・システムズ <CSCO> (情報技術)
- プロクターアンドギャンブル <PG> (生活必需品)
ゼネラルエレクトリック <GE> (資本財) もっとも、この戦略が常に奏功するわけではない。2017年この戦略の対象となった10銘柄は、ダウ平均指数のパフォーマンスを下回った。そして残念ながら、今年もこれまでのところ、10匹のいぬ達は全体で見るとダウ平均よりもスタートダッシュで後れを取っている。
なかでも足を引っ張っているのがゼネラルエレクトリック(GE)で、現在リストラや事業分割で再起を図っているものの、株価は9年ぶりの水準にまで低下している。株価が下げ止まらないことから、ダウ30銘柄から外し、フェイスブックと入れ替えられるのではないかとの観測も出ているほどだ。GEの頑張り次第の面もあるものの、長期的にみればこの戦略の勝率は比較的高いので、ここからの盛り返しに期待したいところだ。
債券の「いぬ」といえば?
実は株式市場以外にも「いぬ」は存在する。「ブルドッグ債」という言葉をきいたことがあるだろうか?
これは、英国外の発行体(国や国際機関、民間企業など)が、英国の投資家向けに、英国の国内市場で発行する、英ポンド建ての債券につけられたニックネームだ。国外の発行体による国内投資家向けのこうした債券は、その国によってなかなか面白いニックネームが付けられている。
日本の国内投資家向けに海外の発行体が円建てで発行する債券は、「サムライ債」と呼ばれている。この名前は聞いたことがある方も多いだろう。同様に、米国の投資家向けに米国外の発行体が米ドル建てで発行する債券は、「ヤンキー債」だ。
中国投資家向けに中国外の発行体が人民元建てで出すものなら「パンダ債」だし、これが韓国投資家向けのウォン建てとなると「キムチ債」となり、オーストラリア投資家向けの豪ドル建てなら「カンガルー債」と呼ばれる。これらを見て分かる通り、ニックネームはそれぞれの国について外国人が思い浮かぶイメージから名づけられている。ブルドッグはもともと英国で生まれた犬種だ。
英国では昨年11月に、10年ぶりとなる利上げが行われた。利上げは基本的には債券市場にとって悪材料となる。またBREXIT(ブリグジット)によって、現在の英国市場は非常に不透明感に満ちている。ブルドッグ債の発行が増えやすい環境にあるとは言えず、当面ブルドッグ債は希少犬種となる可能性が高そうだ。
ちなみに希少動物とされるパンダのほうは、昨年12月の日中当局の合意によって日本企業もパンダ債を発行することが可能となり、早速三菱UFJ銀行やみずほ銀行が発行を行っている。今後も日本企業によるパンダ債発行は増えていく公算が高い
通貨の「いぬ」といえば?
WAON(イオン[8267]が発行する電子マネー)のマスコットの犬も可愛いが、ほぼ日本国内でしか知られていないため、グローバルマーケットの代表とするには荷が重いかもしれない。
一方、仮想通貨には「Dogecoin(ドージコイン)」というものがある。「Doge」とは「Dog」を指すネットスラングで、マスコットとして日本の柴犬が使われている。もともとはビットコインを揶揄する目的でふざけて作られた仮想通貨だが、昨年末頃から大きく値上がりし、一部で人気も高まっていたようだ。
しかし他の仮想通貨同様、このドージコインも今年に入ってからの値動きは非常に激しく、取引量にも日によって大きなばらつきがある。世界に利用者がいるといってもその数は限定的であり、まだ投機対象としての域を出ていないと思われる。仮想通貨に対しては世界的に規制強化の方向にあり、今後は淘汰されていく通貨も増える可能性が高い。ドージコインが通貨代表の「いぬ」になれるかどうかは、まだまだ見極めが必要だろう。
こうしてみると、マーケットの「いぬ」にとっての2018年前半は、残念ながら出足がとても良いとは言えないようだ。
文・北垣愛(ファイナンシャルプランニング1級技能士)/ZUU online
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