知らないと恥をかく「暗黙の口元マナー」
グローバルビジネスでまず重要なのは、異文化の壁を超えて、相手の信頼を得ることである。しかしその前に「暗黙の口元マナー」を知らないと、恥ずかしい状況になるという。
グローバル・エグゼクティブ専門の「暗黙の口元マナー」伝道師として活動する生澤右子氏は、米国歯内療法学会会員で、ペンシルバニア大学で学んだ世界の歯科事情を知る現役歯科医師だ。同氏に、歯とビジネスの間にどんな関係があるのかを聞いた。
グローバルビジネスで恥をかかないための「暗黙の口元マナー」
国境を超えたビジネスでは、文化や習慣の違いを学んで、相手の信頼を得るのが重要である。そういった類の指南書には、国ごとに注意すべきことが挙げられている。
例えば、欧米人向けの指南書には、日本人は 「NO」と思っていても「YES」と答えることがあること、握手や会議での上司・部下の座り方についての注意点などが書かれている。ビジネスパーソンにとって、数字を知っていることや、会社の製品を売ることが全てではない。相手と良い関係性を作り、信頼をおいてもらうことが大前提なのだ。
このとき、意外な落とし穴になるのが「暗黙の口元マナー」である。これを知らないとビジネスのスタートラインに立つことができない。そこで、世界の歯科事情を知る歯科医の立場から、私はグローバルビジネスに不可欠な「暗黙の口元マナー」をビジネスパーソンに教えている。
外国人が指摘する“残念な”日本人の口への意識
電車の中で、あるいは職場で、他人の口のニオイにハッとした経験はないだろうか。
実は、興味深い調査がある。日本人の口臭について在日欧米人に聞いたところ、7割の人が「口臭にガッカリした経験がある」と答えたのだ(註1)。
さらには、「オリンピックまでに口臭を改善すべき」という厳しい意見が4割に上った。
そんな中、当の日本人の9割が「自分は(口臭の原因の一つである)歯周病ではない」と答えた。日本人の30代以上の3人に2人が歯周病であるという厚労省の統計(註2)があるので、どうやら日本人の大部分の方は、口の状況に自覚がないようである。
「八重歯」はチャームポイントにならない
さて、もう一つエピソードを紹介しよう。
私が中学生時代、アメリカ人の英語の先生が思いもかけないことを言った。
「なぜ日本では、あんなに汚い口の人がテレビに出ているのか。アメリカでは、あんなに歯並びの悪い人がテレビに出るなんてことはあり得ない。」
私にとっては衝撃的だった。
確かに、海外ドラマやハリウッド映画を見ても、歯並びの悪い人は見当たらない。そしてまた、留学したい人向けの情報サイトでも「海外では、日本人の歯のきたなさが目立つので注意! 歯科矯正も考えるべき」ということが書かれている。日本では、歯のデコボコも八重歯も、チャームポイントとすら言われているが、同じアジアを含め、海外では全く状況は違う。
歯で社会的階級がわかる国・アメリカ
歯科医である私がビジネスパーソンに「暗黙の口元マナー」を教えている理由は、「歯が汚い=貧乏」という認識が海外、特にアメリカではあり、歯で社会的階級がわかるというくらい、歯がキレイなことが重要だからである。
アメリカの社会学者、Susan Sered氏のエッセイによると、「他のどの指標よりも、歯は社会的階級を表す」という(註3)。
歯が抜けることは、社会的階級が下がることと同じだというのだ。歯科治療が保険でカバーされず高額なために、治療ができず命に関わるケースもあり、隠れた社会問題となっている。
また、ニューヨーク・タイムズの書評にも取り上げられた、ジャーナリスト・Mary Otto氏 の『Teeth』という本でも、本のそでに「歯を見れば、あなたが何者かわかる」とあり、トランプ大統領のような完璧な白い歯を持つ富裕層やアッパーミドル層と、その他の人々との階級差を浮き彫りにしている。
「オースティン・パワーズ」の主人公の歯並びが悪い理由とは?
イギリスはどうかというと、BBCオンラインの面白い記事がある(註4)。
「オースティン・パワーズ」(1997年アメリカ)という映画があるが、イギリス人の主人公が、黄色の歯で歯並びが悪い。これは「イギリス人は歯がきたない」という当時のアメリカ人の皮肉が含まれているのだという。
記事では、アメリカ人と重要なビジネスをするときに、イギリス人が歯医者に行ってキレイにしてもらうことを紹介している。「アメリカ人はキレイな口元を身だしなみの一部と考えているので、自分のケアをできない人を信用して、何百万ドルの契約を取れるだろうか」ということである。
12歳のむし歯が日本の半分という歯科の進んだ国であるイギリス人でさえ、このようなからかいを受けているのだから、八重歯をチャーミングだと捉え、口臭を何とかして欲しいと言われている日本人は、もはやジョークにもならないのかもしれない。
オーラルケアで大きな遅れをとる日本
実際、日本人のオーラルケアは欧米と比べてどうなのか。
ライオン株式会社が2014年に、日本・アメリカ・スウェーデンの3カ国のオーラルケアへの意識調査を行った(註5)。
その結果、欧米2カ国では、デンタルフロスの使用率が50%を超え、「他のケアアイテム(オーラルリンスなど)と組み合わせて念入りにケアをしたい」という人が7割であった。
しかし、日本ではデンタルフロスの使用率が20%弱と少数派で、5割の人が「どちらかというと手軽に済ませたい」と回答した。当然、オーラルケア用品に年間で使うお金は、欧米2カ国の6割の約5000円であった。
日本人はオーラルケア用品へのこだわり、お金をかける意識や、実際の額が低いことがわかった。
また、歯科医での定期検診の受診回数では、欧米2カ国では、年に1・2回が半数を超えているのに対し、日本は受けていない人が最多で半数だった。
これは一つの調査の結果にすぎないが、やはり日本は歯への意識が低いという傾向を如実に表していると思われる。ちなみに海外ではデンタルフロスの自動販売機というものが存在するほど、 身近なオーラルケア用品である。
グローバルビジネスで恥をかきたくないあなたへのアドバイス
今までみてきたように、日本人の感覚で、歯のケアをせずにそのまま海外にビジネスにいくのは、着飾った人が集まるパーティーに汚れた服で行くようなものかもしれない。
ただ、心配はご無用。今から、グローバルスタンダードのオーラルケアを実践すればよいのだ。
まず、デンタルフロスを買いに行こう。ドラッグストアに置いてある糸ようじだ。初心者には、糸を指に巻きつけて使うタイプは少々難易度が高い。ここでは、奥歯でも使いやすい、持ち手(ホルダー)のついたYタイプのデンタルフロスをおすすめしたい。歯ぐきが下がった人は、同じく歯の間をキレイにする歯間ブラシが欠かせない。デンタルフロスで掃除するには大きすぎる隙間に使う。初めて使う人は、出てきた汚れにギョッとするかもしれない。
あの孫正義氏も定期的な歯科検診を受けている
次にあなたがすべきは、歯科医院に定期検診の予約の電話を入れることである。
実は、女性の方が予防的に歯科医院に通っており、男性は治療のために歯科医院に通う人が多いという(註6)。
「そうはいっても、忙しいんだよな~」と思う人は多いだろう。しかしである。ソフトバンクの孫正義氏は、3ヶ月に1回の検診とクリーニングを欠かさないという(註7)。世界的大企業のトップである孫氏もおそらくアメリカ留学の頃から、グローバルスタンダードのオーラルケアを実践しているのではないかと推測する。
まずは、予約を入れてしまおう。予定が空いている日がわかるまで待っていては、おそらくそのままになってしまうだろう。
オーラルケアは心身の健康にもつながる
そして最後に。より高いレベルのグローバルビジネスの成功を望むなら、見える範囲の銀歯を白い(精度が高い)セラミックに変えたり、矯正したり、ホワイトニングしたりすることを検討して欲しい。お金はかかるが、ここはビジネスのための投資と考えて頂きたいところである。
そうして口元がキレイになることで、より魅力的になったり、若く見えたりして自信が持てるようになる。また、精度の高いかぶせ物や良いかみ合わせは、もちろん口の健康、ひいては全身の健康にいい影響がある。
というわけで、今回は欧米の「暗黙の口元マナー」をお伝えした。デンタルフロスの購入と歯科医院の予約をすぐに済ませて頂き、あなたがグローバルビジネスの成功に向けて、一歩踏み出すきっかけになれば幸いである。
※註1 「オーラルケアの実態に関する意識調査」オーラルプロテクトコンソーシアム調べ( http://www.oralprotect.jp/pdf/newsrelease151001.pdf )
※註2 厚生労働省資料( https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/62-23-02.pdf )
※註3 “What Pennsatucky’s Teeth Tell Us About Class in America”( http://susan.sered.name/blog/what-pennsatuckys-teeth-tell-us-about-class-in-america/ )
※註4 “The myth of bad British teeth”( https://www.bbc.com/news/magazine-32883893 )
※註5 ライオン株式会社「日本・アメリカ・スウェーデン 3カ国のオーラルケア意識調査 Vol.1」( https://www.lion.co.jp/ja/company/press/2014/pdf/2014023.pdf )
※註6 「週刊ダイヤモンド 2019.11.30号」ダイヤモンド社
※註7 「PRESIDENT 2019.8.2号」プレジデント社
生澤右子
株式会社Dental Defense代表取締役/グローバル・エグゼクティブ専門の「暗黙の口元マナー」伝道師/米国歯内療法学会会員 American Association of Endodontists/歯科医師/明海大学歯学部客員講師/健康経営エキスパートアドバイザー(東商認定)
日本最難関である東京医科歯科大学歯学部・同大学院を卒業し(歯学博士)、歯学部附属病院歯科麻酔科勤務。その後、世界最先端のアメリカ・ペンシルバニア大学歯学部のマイクロサージェリーコースを修了し、フリーランス歯科医師として複数のクリニックで治療を行うようになる。「日本人のオーラルケアの遅れはグローバル化の障壁となってしまう」と危機感を抱き、株式会社Dental Defense を設立。現在はグローバルでの活躍を志すビジネスパーソンに向け、世界標準のオーラルエチケットを「暗黙の口元マナー」とし発信している。「こんなこと初めて聞いた!根本から歯に対する意識が変わった!!」などと大きな反響を得る。(『THE21オンライン』2020年04月11日 公開)
提供元・THE21オンライン
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