ホットペッパーグルメ外食総研・エヴァンジェリスト(伝道師)の竹田クニ氏によるトレンドの振り返りと今後の外食市場の展望をお届けする。今回は、「2019年の総括」「2020年の展望」そして「2020年以降のスグそこにある未来予測」という3部構成で話を伺った。
2019年のグルメトレンドはスイーツ、ドリンク、軽食系が上位を占める
「2019年は軽食ニーズが伸びる」という予測を1年前にお話しましたが、予想通り、外食市場の中でも伸びが大きい軽食業態でのヒットが目立ったのが2019年の一つの特徴です。
ホットペッパーグルメが実施した「流行グルメランキング2019」の結果は下の図の通りで、「タピオカミルクティーが圧倒的な得票で第1位。チーズを使った「進化形」が数多くランクインしたほか、上質の材料を使用した「バナナジュース」、極端に賞味期限の短い「幻グルメ」は、昨年度予測した「本物志向」「極める」の例と言うことができるでしょう。
タピオカミルクティーは2017年7位に登場、2018年は5位(※タピオカとして)にランクイン。長期間に渡って消費者が支持するブームとなりました。こうした市場を「トイスイーツ」(お気に入りの玩具のように愛でるスイーツの意)、「アクセサリードリンク」などと呼びますが、この市場は以前より、ティラミス、ナタデココ、最近ではマカロン、ベルギーワッフル、プレミアムポップコーンなど、商品が入れ替わりながら連綿と続いてきています。
大ブームとなったタピオカ(ミルクティー)は、ある程度定着したと考えてよく、ここからはブランドごとの優勝劣敗が始まると予想されます。そして2020年、タピオカミルクティーの次の商品が出てくる可能性もあり、注目されます。
ポータグルメ、ゴーストレストラン、サブスクリプション ~多様な提供スタイルが消費者の支持を集め始める~
メニューの流行ランキング以外で2019年に目立った動きでは、
・ポータグルメ(デリバリーやテイクアウトの進化)
・ゴーストレストラン(デリバリーに特化した無店舗型飲食店)
・サブスクリプション(通称サブスク。定額制のサービス)
などが消費者に支持され始めたことが挙げられます。こうした多様な提供スタイルの登場から読み取れるのは、消費者が求める「コスト」「時間」「利便性」×「品質」「満足度」の多様化です。
例えば、「移動の手間や時間をかけずに、仕事中のデスクでも美味しいものを楽しみたい」「自宅でプロの味を楽しみたい」など、シーン(食事の機会)によって異なる多様なニーズに対して、これらの新たなサービスは魅力的な選択肢を提供しているわけです。こうした新たなサービスを含め、市場ではますます外食と中食の垣根を越えたボーダレスな競争が展開していくと言えます。
またこうした新たなサービスは、料理やサービスの「何に対する価格なのか?」という問いを浮き彫りにするものとも言え、これからの市場に大きな影響を与えると思われます。これについては後述します。
2020年の展望 ~「グローバル化」と「ボーダレス化」という大きな潮流~
2020年は外食産業にとって大きな転機となる年になるのではないかと予想しています。トレンドを予測する前に、まず外食市場における大きな2つの潮流についてお話したいと思います。
■グローバル化
訪日外国人は年々増え続け、2020年には4000万人を超えると予測され、関東1都6県の総人口約4350万人に迫る旅行者が日本にやってきます。また外国人労働者数も増加しており、東京都では18人に1人が外国人労働者というデータがあります(総務省、厚生労働省発表のデータより)。
東京オリンピック・パラリンピックの後もワールドマスターズゲーム2021関西(2021年)、大阪万博(2025年)と国際的なイベントが続き、日本は「市場も働く人もグローバル」となっていく契機になる年と考えられます。
そしてこのことは、国籍ばかりではなく「シニア」「主婦」「短時間労働の方」など、多様な考え方や働き方を受け入れる社会の実現、広い意味でのダイバーシティの実現にほかならず、今後の日本の社会にとってますます重要な意味を持ちます。
■ボーダレス化
外食中食のボーダレス競争が加速……は、昨年も提起させていただいたテーマ。従来からの中食のクオリティの向上、イートインやグローサラント(スーパー内で選んだ素材を調理し店内で提供するシステム)などに加え、2019年に注目された前述のポータグルメ、ゴーストレストランのほか、フードトラック、出張シェフ、出張回転寿司など、外食中食という従来のカテゴリーを越えた新たな競争環境が進化・激化すると思われます。
こうした新たなカテゴリーは、外食にとっては「店舗外売上の獲得」「注文・製造・提供の同時性の解消」というイノベーションであり、新たなビジネスチャンスとも言え、積極的な参入が予想されます。
「グローバル化」と「ボーダレス化」は、トレンドの背景となる市場環境の大きな変化。2020年以降も続く大きな潮流と言えます。
2020年のトレンドキーワード ~2018年、2019年のトレンドがより進化~
過去3年間で、「本物」「進化系」「イミ消費」などのキーワードを提言してきました。その流れは今年のランキングにも反映されていますが、2020年も大きな方向性では変わることなく、それぞれが「進化」していくものと考えます。
■2020年のキーワード
1、ジャパンプライド(昭和回帰、日本回帰、地方回帰)
2、イミ消費
3、極み、進化系
4、反動/背徳消費
5、本物・素材感
6、おひとり様、「孤食化」と「個食化」
7、キャッシュレスをはじめとした業務効率化
1、ジャパンプライド(日本回帰、昭和回帰、地方回帰)
日本が持つ文化的な価値を再認識・再発見し味わうことに貢献感や満足感を得て、それに誇りを感じ、持つことです。グローバル化が進み、異文化・習慣と触れ合う機会が増えるからこそ、日本の持つ素晴らしさを再認識していく意識が進むと思われます。また経済が成長し、日本人が生き生きと活力があった時代への憧憬は、若い世代にとっては新たな体験価値を持っているようです。
<事例>
古き良き日本の食習慣、料理、設備、昭和回帰の大衆酒場、国産食材を使ったメニュー、地域再生モデルとしての農場レストランなど
2、イミ消費
モノ消費(have)→コト消費(do)→「イミ消費」(be)へと価値観が変化。物やサービスを買うなら、健康増進、社会貢献、他者支援、地域貢献・共生、歴史文化の伝承・交流、手作り、地域貢献、フェアトレードなど、こうした価値が「付加」されている商品を選ぶ人が増えるでしょう。
特に、「体をつくる素」としての健康、環境影響に配慮した商品などが注目されます。また、特にミレニアル世代(20~30代)、ジェネレーションZ(ミレニアルの下の世代)は社会正義的な価値に敏感と言われており、彼らの消費喚起には重要と言えます。
3、極み、進化系
商品の特徴的な具材や成分を、量や質で極端に際立たせた商品に支持が集まっています。極端な大盛り、そして具材の存在感ある大きさや厚みは視覚的なインパクトが大きく、SNS映えにも適するでしょう。また、「質」では普及品とは異なる本格的な味わいや背景にあるストーリーが消費者からの支持につながっています。
<事例>
・量…メガ盛り、厚切り、激辛、強炭酸、強アルコールなど
・質…丸ごと生搾り、産地限定、フローズン、無農薬など
4、反動/背徳消費
糖質制限やプリン体の摂取制限など、具体的で積極的な健康管理、体作りに取り組む消費が増えた一方で、チートデイ(制限なく好きなものを食べてもいい日)を設けるなど、美味であっても必ずしも健康管理に良くない食材を「思いっきり楽しむ」というイベント的な機会を設ける消費者が登場してきています。
<事例>
背徳鍋、痛風鍋、激辛スパイス鍋など
5、本物・素材感
本格的な素材や優れた職人の技術にこだわった商品が人気となるでしょう。一般の商品よりも高価であっても、行列も生まれるほど消費者の支持を集めることが予想されます。バブル時代の「高級品志向」とは異質なもので、特にこだわらない食事や品物は安価な汎用品で済ませても、自分が好きな、こだわりたい食には思い切って消費するというメリハリが感じられるのが特徴です。
<事例>
高級食パン、和牛、熟成肉、滋養強壮など
6、おひとり様、「孤食化」と「個食化」
「孤食化」は一人で食事をするもので、「個食化」は、例えば家族で食事の際でも一人一人が別々のメニューを食べるというものです。ライフスタイルの多様化に対し、少量で多様、便利なメニュー・惣菜を提供することが求められます。
<事例>
・孤食化…ひとり焼肉、町中華、居酒屋のお一人様セット
・個食化…回転寿司のラーメンなど
7、キャッシュレスをはじめとした業務効率化 ~単なるブームでなく、生産性向上策の一つとして~
ほかのトレンドとは異質のキーワードですが、業務の負荷軽減などのメリットが大きく、今年のキーワードとして挙げたいと思います。テクノロジーを活用しつつ、メニュー(調理技術・提供方法)、食材の質、ストーリー、空間の魅力、接客などの付加価値向上にいかに接続させるかが重要です。
<事例>
・IT化…キャッシュレス、予約管理、シフト管理、経営分析、来客分析・予測、SNS活用など
・機械化・ロボット化…厨房機器、掃除ロボット、翻訳機など
スグそこにある未来へ向けた、3つの提言。「食のモビリティ向上」「食サ分離」「ダイナミックプライシング」
2020年以降も、前述した「グローバル化」と「ボーダレス化」という大きな2つの潮流は続いていくと考えますが、その中で、外食産業で進化発展が期待される3つのテーマを提言したいと思います。
1、食のモビリティ(移動性)の向上
ポータグルメは単なるブームではなく、社会的要請でもあります。人口減少、高齢化、世帯数の減少と分散化は特に郊外、地方では顕著です。地方の百貨店の撤退や、郊外での飲食店の廃業や退店が増え、今後さらに進むことは間違いありません。店舗が身近になくなれば、「遠くて食事や買い物に行けない」「重くて運べない」「車(免許)がない」「健康上の理由で出かけられない」など、様々な不便が発生します。
デリバリーや出張サービスで質の高い食が提供されることは、こうした「不」の解消にほかならず、それはこれからの日本の社会にとって必要かつ極めて重要な役割となります。自動運転やドローンによる配送などを活用した食ビジネスの進化も、極めて公益性が高いものです。
2、「食サ分離」。料理とサービスの概念分離が始まる
従来の外食市場では、高級な料理には高級なサービス、安価な料理には相応のサービス……といった比例関係が多くみられますが、他業界を見てみると、商品とサービスの概念が分かれているものが多く存在します。
旅行業界では「泊食分離」という概念があり、部屋と料理の対価の概念は分離しています。例えば、部屋は同じでもセットされる料理のコースで料金が異なる、または食事なしも選べる。あるいは食事は同じでも海側と山側の部屋で料金が異なる……といった形で消費者に浸透しています。また航空業界でいえば、エコノミーとプレミアムエコノミーの差額はシートの違いです。こうした考え方は外食産業にも必要なのではないでしょうか。
■「高級料理×サービスはカジュアル」の登場
外食産業にも、料理とサービスの分離をうかがわせる事例が登場してきました。
<事例>
・セルフ焼肉店…個室焼肉で、肉は一級品の肉を出すが、焼く、ドリンク、ライスなどはセルフサービスで接客サービスは省略
・グルメ立ち食い…料理は高級だが、立食スタイルでカジュアルに提供
・カリスマ中華シェフが提供するファストフード…中華の著名一流シェフがレシピを作成し、ファーストフードスタイルで提供
こうしたスタイルの店は、食材、料理は高級ながら、サービス(コスト)を廃し、リーズナブルな価格も実現しているところが支持されています。
■軽減税率で浮かび上がった「サービスの対価」
報道が加熱した消費増税の「軽減税率」の問題。論点は10%と8%の違いでした。店の設備を使用するのは「外食」で10%、持ち帰りは「中食」で8%。一方、デリバリー事業者のサービスを利用すると手数料が課金されることは当たり前になってきました。
従来の日本ではサービスは料理の価格に含まれているのがスタンダードでありましたが、軽減税率の議論は“図らずも”、同じ料理でも、提供の仕方によって価格が異なることを浮き彫りにしたわけです。
海外では料理とサービスの概念が分かれているのがスタンダード。チップ制はそれを象徴する制度と言えますが、日本には馴染みにくいと考えられます。2020年以降、日本の外食市場が「グローバル化」する中で、日本らしいサービスの対価の在り方の議論と実現が進むことが望ましいと考えます。
「料理に含まれていたサービスへの対価を分離して課金せよ」ということではありません。料理とサービスの「価値」が分けて認識され、その総和に価格をつけるという発想を進めていくことが外食産業の進化発展につながると考えています。
具体的には、「高層階窓際の眺望の良い席は席料としてプラス〇〇円」「豪華な内装で、高級な音響設備がそろった部屋は室料〇〇円」「ソムリエが担当しサーブするテーブルはサービス料加算」といった設定が考えられます。一部はすでに市場で実現されているものもあると思いますが、「プラスでお金を払っても、対価に見合ったサービスが受けられる」と考える需要はあるのではないでしょうか。
3、ダイナミックプライシング
「食サ分離」=料理(調理方法、提供方法、食材)、サービス(空間、接客)の概念分離は対価の在り方も変えるのではないかと考えます。例えば、旅行業界や航空業界では、繁忙期と閑散期で料金設定が異なります。宿泊産業では特日(休日祝日の前日)には料金設定が高くなるレヴェニューマネジメントと呼ばれる仕組みがあり、ゴルフ場は土日と平日では料金が異なります。
こうした需給状況によって料金が変化することを「ダイナミックプライシング」と呼びます。前述の「食サ分離」の概念をさらに一歩進んで考えてみれば、外食産業にこうしたダイナミックプライシングの考え方があっても良いのではないでしょうか。
外食産業にもピークタイム以外の時間帯に設けられる「ハッピーアワー」が存在しますが、外食産業は基本的にオーバーストア(需要=お客様に対して、供給=店が多い)という競争環境から、閑散期を埋めるために割引をするサービスが多く行われてきました。
もちろん業態にもよるのですが、「食サ分離」の概念と合わせたダイナミックな料金設定、例えば、「花火大会の時は、窓際の席は〇〇円プラス」「紅葉の時期の〇月~〇月のテラス席は〇〇円加算」「寿司屋で大将が選んだネタを自ら握ってサーブしてくれるカウンター席は〇〇円加算」などがあっても、そこに消費者のウォンツがあれば成立すると思います。
2020年、外食産業が飛躍する契機の年に!
大きな国際的イベントが行われる2020年。「グローバル化」「ボーダレス化」と言う大きな潮流の中、外食が提供する価値を再認識し、それに見合った対価で提供する、外食産業が進化発展する契機の年になると予想します。
20世紀の成功体験から脱却し、グローバルを見据えた日本の外食産業らしい付加価値と、ふさわしい対価をいただける産業になることが「生産性向上」には欠かせないと考えています。
2020年と、それ以降を見通して事業のあり方を考える時に、今回の提言がヒントになれば幸いです。
竹田クニ
1963年生まれ。「ホットペッパーグルメ外食総研」エヴァンジェリスト、株式会社ケイノーツ代表取締役、日本フードサービス学会会員、一般社団法人 日本フードビジネスコンサルタント協会 専務理事、早稲田大学校友会 料飲稲門会 常任理事。マーケティング、消費者の価値観変化、生産性向上などをテーマに講演、記事執筆、企業のコンサルティングを行うほか、外食、中食、給食を結ぶB to Bマッチングも手掛けている。
文・『Foodist Media』編集部/提供元・Foodist Media
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