(本記事は、サチン・チョードリー氏の著書『「運がいい人」になるための小さな習慣 世界の成功者が実践するたった1分のルール』=アスコム出版、2019年6月3日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

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「ギブ&ギブ&ギブ」で与え続ける

ビジネスシーンでは、「ギブ&テイク」という言葉がよく使われます。

これは何かを提供する代わりにその見返りを求める、五分五分の関係を意味する言葉です。しかし、私の考え方は少し異なります。

「テイク」を求めず、ひたすら「ギブ」するのです。言うなれば「ギブ&ギブ&ギブ」。

とにかく与え続けるくらいがちょうどいいというのが私の考え方です。

ギブとはつまり、相手に何かを与え、貢献すること。「ギブ&テイク」を前提とすると、これは「貸し」になりますが、それでは意味がありません。

「いくら貸したから、いくら取り立てなければ」などと考えるのではなく、損得勘定抜きで提供し続ける〝気前のよさ〟こそが、相手の心に残るギブなのです。

私がソニーの出井さんに与えた「ギブ」とは

私は日頃から、さまざまな立場の人とお付き合いをしています。

なかには私よりもはるかにステータスの高い人も少なくありません。ソニーで会長職まで経験なさった、実業家の出井伸之さんもその一人。

出井さんといえば、ソニーで10年間にわたってトップを務め、経団連の副会長も5年務めた方です。当然、経験や人脈、情報網など、どれをとっても私など足元にも及びません。

本書を手にした方のなかには、ご存じの方もいるかもしれませんが、そんな出井さんは、私のある著書に推薦文を寄せてくださったことがあります。

なぜそうした親密な関係を築くことができたかといえば、これも「ギブ&ギブ&ギブ」の賜物でしょう。

出井さんは日本では広範囲にわたる人脈を持っていますが、東南アジアなどの新興国との付き合いは、比較的手薄でした。

そこで出井さんが東南アジア圏でのビジネスを手がける際、私がインドやシンガポールのビジネスパートナーを紹介した経緯があります。

もちろん、仲介料をいただくような話でもなければ、私自身がパートナーとして参加する案件でもありません。純粋に、出井さんの仕事に貢献できることが、私は嬉しかったのです。

おそらく、出井さんはこうした私の仕事に感謝してくださっていたのでしょう。出版に際して推薦文をお願いしたところ、二つ返事でOKしてくださいました。まさに「ギブ」の心得によって得られた、百万の援軍といえます。

しかしここで、「自分にはサチンさんほどの人脈も資金もないから、他人に与えられるものなんてない」と考えてしまう人もいるのはないでしょうか?

大きな間違いです。どんな人でも誰かにギブできるものを必ず持っています。

たとえば、まだ若く、ビジネスパーソンとしては未成熟な人でも、その世代のマーケティングには長けているはずです。若者のあいだで流行っていることを、切に知りたがっている人は少なくありません。

女性であれば女性ならではの感性、あるいは母親という立場からのアイデアを提案できることもあるでしょう。企画会議の席でも、男である私にはどう逆立ちしても思いつかない着想が、女性スタッフから飛び出すことは珍しくありません。

ひとつのコツとして、打ち上げや会食などの場で誰かと雑談をするときには、相手についてのキーワードをストックする習慣を身につけるといいでしょう。

「来月、妻の誕生日なんだ」
「今年は子供が受験を控えていて大変だよ」
「もうすぐ孫が生まれるんだ」

会話のなかで何気なく触れられた情報を、できれば忘れないようすぐにスマホや手帳にメモすることをおすすめします。

こうした情報を確実に押さえておいて、たとえばその人の奥様の誕生日が近づいてきた頃に、「奥様の誕生日におふたりでどうぞ」とワインをプレゼント。

また、お子様の受験には学業の神様のお守りを、出産のタイミングでは安産祈願のお守りをプレゼントするなど、高価なものでなくてもタイムリーな心遣いは、必ず相手の胸に残ります。たったひとつの「ギブ」でも、それがお互いの心の距離をぐっと縮めることになるのです。

誰にでも与えられるギブが「言葉」と「時間」

もっと簡単に、誰でも与えられるギブがあります。それは「言葉」です。

私の周囲にも、何かの折に「サチンさん、何か困ったことがあったらいつでも相談してよ」と言ってくれる人がいます。

これは社交辞令のようでもありますが、重要なのは「私はあなたのために動くつもりがありますよ」と、はっきり言葉にして表明している点です。

言い換えれば、こちらの味方であることを伝えてくれているわけですね。

そんな相手のことを嫌う理由はひとつもありません。私はきっと、この人が本当に困っているときには、できるかぎりの協力を惜しまないでしょう。

ならば、自分も同じことをすればいいのです。

あるいは、誰かが忙しいときにあなたに手伝う時間があるなら、それはあなたにしか与えられないギブです。

「ギブ&ギブ&ギブ」の精神を常に持ち続けていれば、気づかないうちにあなたのファンが周囲に増えているはずです。

こうした関係ができあがっていると、「信頼」を得ることができ、仕事もスムーズに進められますよね。それこそが、あなたが受け取る「テイク」です。

この習慣のまとめ

「ギブ&ギブ&ギブ」で与え続ければ「信頼というテイク」を受け取ることができる

相手のことを好きになる

目の前の相手に自分のファンになってもらうためには、まず、自分が相手を好きになることから始めなければなりません。

誰しも、自分に好意を持ってくれている人には、自分も好意を持ってしまうものです。これは心理学用語で「好意の返報性」といい、恋愛における重要な要素のひとつとされていますが、ビジネスや一般的な人間関係にも適用できることです。

ただ相手からの好意を期待するのではなく、相手に興味を持ち、相手のいいところを積極的に探すことが、自分のファンをつくるための第一歩と考えてください。

私がまだ一介の営業マンだった頃にも、この手法がものを言いました。

飛び込みで見込み顧客のもとを訪れると、当然そこには初対面の関係が生まれます。まして向こうからすれば、インド人の営業マンが突然やって来るのですから、戸惑いもあるでしょう。

インターフォンの時点で門前払いされることもあれば、邪険に追い払われるようなことも珍しくありません。

それでも、そうした対応に腹を立てることなく、できるかぎりの笑顔で失礼を詫び、その日は引き下がることを私は徹底していました。そして見込みがありそうなお客様には、翌日、翌々日と、何度でも足を運ぶのです。

相手の長所をイメージすることで自己暗示をかける

もちろん私も人間ですので、手ひどく追い払われた相手に無条件で好印象を持てるわけではありません。

そんなときは、そのお客様の長所を具体的にイメージして、「打ち解けたら楽しそうな人だな」とか、「聡明な人に見えるから、きっとこのサービスのよさを理解してくれるはずだ」などと、できるだけポジティブなシミュレーションを行うことで、自分を鼓こ舞ぶ したものでした。

やみくもに訪問を繰り返すと、なかには「いい加減にしろ!」と気分を害する方もいるので見極めが必要ですが、好意の気持ちは必ず伝わります。

「あなたにとって有益なサービスを提案したい」「あなたの仕事をもっと便利にしたい」という気持ちで接していると、そのうちに「しょうがないな、少しだけ話を聞いてあげるよ」となります。逆に、どれほど弁の立つ営業マンでも、内心で相手のことをバカにしていたら、決していい成績は残せません。

営業マンがお客様と、「いい天気ですね」「ご家族はお元気ですか」などと他愛のない雑談をしたがるのは、話題をふることで情報を引き出し、それを相手のことをもっと好きになる材料にするためです。

そのうえで、「あなたの力になりたい」「あなたの仕事に貢献したい」という思いがあれば、それは必ず伝わります。

まずは自己暗示でもいいのです。

もちろん、「○○さんは素敵な人だ」「自分はこの人が好きだ」とはっきりと言葉に出してみるのも有効です。

目の前の相手を受け入れ、他人を好意的に見る習慣をつければ、きっと相手も心を開いてくれるはず。

そうなれば、あなたのファンになってもらうまで、あと一歩。最初からウマが合った人よりも、苦労して関係を築いた人ほど心強い応援団になってくれるものなのです。

この習慣のまとめ

「好き」という気持ちが相手の心を溶かし強力な応援団になってくれる

褒め言葉は事実の3割増しに盛る

相手を気分よくさせるトークといえば、「褒める」ことが一番。

その褒め言葉により効果を持たせるための秘訣は、事実の「3割増し」を意識することだと私は思っています。

たとえば私は、ある大手商社の社長と協業したときに、まずは相手の人格を褒め、ステータスを褒め、さらに会社の方針の素晴らしさを、いつもより念入りに褒めました。

根も葉もないことを言うのではなく、私が知るかぎりのその会社のいいところを、少々オーバーに表現して伝えたのです。

そうした〝つかみ〟のトークに気をよくしてくれたのか、その日の商談は最初から非常にいい雰囲気で運び、結果的に私は数千万円の仕事をゲットしています。

また、直球で相手を褒めるだけでなく、間接的な褒め方をすることで、効果はさらに上がります。

わかりやすいところでは、取引先の部長と親しくなりたい場合。直接本人を褒めることも大切ですが、むしろ本人が席を外しているタイミングで、その部下の方に言うのです。

「○○部長は本当にキレ者ですね。業界でも評判ですよ。こうしてご一緒させていただけるのは光栄です」

この褒め言葉は、高い確率で本人の耳にも入るでしょう。面と向かって言われるよりもリアリティがあり、はるかに気分がいいはずです。

こうしたちょっとした「褒め」の作法で周囲のおぼえがよくなれば、協力者はどんどん増えていきます。

まずは最も身近である家族から、3割増しで褒めてみてください。

私も普段から、妻や子供を積極的に褒めるようにしています。

たとえば妻が美容室から帰ってきたら、すかさず「おや、素敵だね。女優の○○さんみたいだよ」と言ってみる。美容室帰りの女性というのはたいていご機嫌なものですが、帰宅して夫からそんな言葉をかけられれば、さらにハッピーになることは請け合いです。

妻がハッピーでいると、家庭のなかが明るくなり、私も子供も幸せな気分になります。それが今日の疲れを癒やし、明日への活力を生むことになりますから、いいことずくめ。

あなたにとっても、「褒め」の効果を肌身で知るいい機会となるでしょう。

この習慣のまとめ

うそではなく事実をオーバーに言うことで「褒め」の信憑性が増す

年下は「褒め言葉」+「注意」で育てる

部下や後輩も、あなたにとって大切な援軍です。身近な後輩から尊敬されず、十分な協力を得られないようであれば、ビジネスが成功するはずがありません。

ここでもやはり、部下や後輩に自分のファンになってもらうことがポイントとなるわけですが、この場合、ただ甘い顔をして褒め続けるだけでは逆効果。

ご機嫌をとってなあなあの関係を築くことと、ファンになってもらうことは真逆です。

では、部下や後輩がファンになるような人物とはどのようなものか。それは自分を引っ張り、 育はぐく んでくれる人です。

たとえば、「このあいだ出してもらった企画書、とてもよく書けていたよ。この調子で頑張って」と言われれば、部下のモチベーションも上がるでしょう。

しかし、モチベーションを上げるだけでなく、実力を伸ばすためには、「褒める」ことに加えて「注意する」ことが必要です。

具体的には、「企画書、とてもよかったよ。でも、こういう視点が盛り込まれていたら、さらによくなるね」と言えば、その部下は言われたポイントを改善し、次はさらにいい企画書を作りあげようと努力するでしょう。

以前、まだ小学校低学年だった甥っ子に対して、言葉遣いを注意したことがありました。彼は学校の成績もよく、幼い頃から習っているピアノの技術もなかなかのもの。しかし、周囲の大人に何かを言われた際に、「あ、そう」と返事をすることが私は気になっていました。

そこであるとき、こう言い聞かせたのです。

「君は勉強もピアノもできる、本当に優秀な子だね。だからこそ、もったいないなあ。あとは言葉遣いさえ上手になれば、日本一の天才小学生になれるのに」

「何それ、どうすればいいの?」

「じゃあまずは、まわりの大人の人に返事をするときに、『わかりました』と言うようにしてごらん。それだけでもだいぶ変わるはずだから」この直後から、彼はすべての返事に敬語を使うようになりました。

急激な成長ぶりに、周囲の大人たちもびっくりしていたものです。

会社の部下や後輩も同様です。あなたが「自分を伸ばしてくれる先輩」だと認識されれば、自ずと支持は得られるでしょう。これこそが、年長者からの「ギブ」であり、ファンを増やしていくための秘訣なのです。

この習慣のまとめ

褒めるだけでは軽んじられ注意だけでは信頼関係を築けない

『「運がいい人」になるための小さな習慣 世界の成功者が実践するたった1分のルール』
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サチン・チョードリー
法人/個人向けの経営コンサルティング、講演・セミナー事業を行うAVS株式会社代表取締役会長。鳥取県の地域活性化をミッションとする株式会社ITTR代表取締役社長など、複数の会社を経営。上場企業を含む複数の企業コンサルタント、アドバイザーとして経営に参画。幼少時に外交官の父親に連れられて初来日、バブル期の東京で過ごす。帰国後も当時のきらびやかな印象が忘れられず、1996年に再来日。いまでは母国インドはもちろん、日本、アジアでも数多くの事業を成功に導く実業家。
 

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