飲食店の現場で働いていると、様々な客と出会う。多くのことが学べて人生経験も豊富になる。時には忘れられないような感動的な体験をすることもある。それが飲食店で働く醍醐味だ。

しかし、なかには店にとって本当に迷惑な客、想定外の行動をする客がいるのも事実である。筆者は、飲食業歴15年、カフェ経営6年の経験があるが、これまで驚くような客をたくさん見てきた。嘘の予約を入れる客、トイレットペーパーを盗む客、テーブルに灰皿を接着剤でくっつける客など、対処のしようがない客もたくさんいた。

こうした困った客に対しても飲食店はしっかりと対応をしていく必要がある。そこで今回は、現場の接客担当者としての視点から、近年増えつつある「嫌われる客」の特徴とその対処法についてまとめてみた。

態度がよくない客

態度がよくない客は非常に多い。「いらっしゃいませ」との呼びかけに目も合わせてくれない。「何名様ですか?」と問いかけても指で数を示すだけ。注文を聞いても「コレ」としか言わない。

“それのどこが悪いの?”と思う人もいるだろう。しかし、接客スタッフからすると結構ダメージは大きい。私も正直、イラっとして顔に出てしまったことがある。接客に対して反応が無いというのは非常に辛いものなのだ。もちろん、お客様には悪気がないことがほとんどだ。

対処法としては、接客の工夫が考えられるが、これもまた難しい。今まで以上に元気な声で接客する、お客様に積極的に話しかけるといった案も悪くはないが、接客側のモチベーションが下がると効果が出なくなることがほとんどである。

可能であれば、接客ではなくハード面での工夫をしておきたい。例えば、体をかがめなくては入れないほど小さな入り口の店、呼び鈴を押さないと店員が扉を開けてくれない店などが実在するが、これらは客を店に注目させ、店員と客の距離を縮めるための素晴らしい工夫と言えるだろう。

仮にそこまでできないにしても、ちょっと変わったメニューブックを用意したり、カップやグラスが選べたり……といったようなことでも接客はしやすくなるはずだ。つまり、「よりよい接客」を目指すよりも、お客様の「心が動く仕掛け」を作っておくことが大事なのである。
 

(画像=iStock.com/AH86)

水ばかり飲む客、ドリンクオーダーしない客

筆者は父が喫茶店を経営していたこともあり、子供の頃から様々な飲食店に関わる常識を教えてもらったものだ。その中のひとつに「飲食店の水は飲むな」というものがあった。当時は「飲食店の水は美味しくない」と言われていたこともあったかもしれないが、「水ばかり飲むのは店に対して失礼だからドリンクはオーダーすべき」というのが一番の理由だ。ちなみに、筆者は今でも飲食店でほとんど水を飲まない。

しかし、この「常識」は、現在はほとんど通用しなくなってしまった。ラーメン店などでは飲み物は注文しなくてもよいだろうが、ケーキ専門店でケーキだけを食べている若い女性を見かけることもある。店にとっては客単価が下がるのであまり有難くない客だ。きっと節約のためにそうしているのだろうが、ケーキと水では美味しさも楽しさも半減する。私がご馳走するから、ぜひ紅茶とのマリアージュを楽しんで欲しいと思ってしまうくらいだ。現実的には難しいかもしれないが、ケーキの単品販売をやめてドリンクセットのみにするのもひとつの手だろう。「こういう食べ方がオススメですよ」というものを店側が示す必要がある。

多くの飲食店は「贅沢をする場所」というよりも、できるだけ安く「日常使いができる場所」になりつつある。どんな飲食店も、お客様に新しい価値を提供し、それに対して喜んでお金を払ってもらわなくてはならない。単なる「場所の提供」ではなく、「飲食店は食文化をつくっている」という高い意識を持つことが重要なのだ。

長居する客

カフェが台頭してきた頃から、長居する客が急激に増えたように思う。私の経験で言うと、「食事客」は意外と長居しない。だいたい1時間かそれ以下だ。むしろ、単価の低い「お茶客」の方が滞在時間が長くなる傾向にあり、2~3時間は当たり前という感覚である。数字面だけで見ると、回転率が良く単価も高い食事客はとても有難く、お茶客は残念ながらそうではない。

ドリンク1杯で6~8時間くらい滞在していた客もいたが、よほどの混雑でない限り、退店をお願いするのは難しい。営業時間内であれば、「お客は好きなだけ店に居られる」というのも、もはや飲食店の常識となってしまった。実際、かなりの混雑時に退店をお願いしたこともあるが、けっこう辛いものである。できることなら何も言いたくないというのが接客する側の本音だろう。

では、長居する客が目立つチェーン系コーヒーショップでは、どのような工夫をしているだろうか。電源や無料Wi-Fiなどの設備を整えている反面、席数を増やしたり、長時間滞在しにくい「座面が硬い椅子」を使用していることが多い。近年は特に、テーブルは小さめで低く、勉強や打ち合わせ、パソコン作業がしにくい仕様になっている。

それでも長居客を減らすことは難しく、最近は単価を上げる戦略をとる店が増えているようだ。追加ドリンクを100~200円程度で提供するサービスもそのひとつ。これは「コーヒー1杯で粘る客」を減らすことにもなり、店と客の関係をよくする良案と言えるだろう。
 

(画像=iStock.com/Liderina)

持ち込みをする客

「持ち込み」は飲食店にとって、非常に判断が難しい問題になっている。例えば、コーヒーショップでカバンの中から小さなチョコレートを出して食べている客がいたら、あなたはどう思うだろうか。ギリギリセーフと思う方、じつは自分もしょっちゅうやっているという方もいるかもしれない。もちろん筆者はやらない派である。先日は、コーヒーショップでコンビニのおにぎりを持ち込んで食べている女性を見た。おにぎりとカフェラテのマリアージュである。食文化もマナーも崩壊し始めたかと落胆してしまった。

ただ、一般の飲食店でも全ての持ち込みがマナー違反になるわけではない。例えば、のど飴や小さなお子様への離乳食であれば違反とは言えないだろう。じつに線引きが難しい問題なのである。厳格に全ての持ち込みをお断りとしてしまっても、「監視」が大変になる。ある程度は容認する姿勢も必要だ。

それに飲食店では、客をルールで縛ることは非常に難しい。ルールを作ってしまうと、店が非常に重苦しい雰囲気になってしまうからだ。眼に余る場合は注意をするとして、店は客のマナーが向上するように努力をする義務がある。客のマナーの低下は、敬意を払ってもらえない店側の責任であるようにも思えるのだ。

お皿の破損をする客

お客様がグラスなどを倒して割ってしまうというのは割と眼にする光景だ。もちろんお客様に悪気はないが、一点数百円はするので店にとって結構な損失である。これも飲食店の「常識」であるが、悪質な場合を除き、お客様に弁償を求めることはできない。

筆者も過去に居酒屋でグラスを割ってしまった経験がある。非常に申し訳ない気持ちになり、酔いも一気に覚めてしまった。しかし、その居酒屋は素晴らしい工夫をしていたのだ。割れたグラスの片付けをした後、笑顔で「カンパ箱」を持って来たのである。確か数百円の「カンパ」をしたように記憶している。

故意でない限り、グラスを破損しても客は悪くない。にも関わらず、店はその客に悪い印象を抱いてしまう。また、客も居心地が悪くなり、同様に店に対する印象が悪くなる。そういう意味でカンパ箱は双方が心地よくなる素晴らしいものだ。私は「迷惑料」を払うことで、その後も心地よく店に居られたのだ。カンパ箱は「常識外れ」の案だが、こういった柔軟な発想は今後ますます必要になるだろう。
 

(画像=iStock.com/kumeda)

子供を放置する客

最近はグルメサイトの店舗情報欄などでも「子連れ可」「お子様連れ歓迎」「小学生以下のお子様不可」などの表記が目立つようになった。お店側がスタンスを示せるようになったのだ。また、客側も子供を連れて行く場合、店を使い分けることができるメリットがある。

たいていの店は「子連れ可」だが、歩き回る子供を放置するような無責任な親が多いのも事実である。親同士でおしゃべりを楽しみたいのはわかるが、小さな子供が店内を歩き回るのはかなり危険だ。子供に責任はないが、自分本位な親が多いものだとうんざりしてしまう。

しかし、飲食店の中では、子供は歩き回るものだし、親は自分のことしか考えたくないものなのだ。親が子供に注意しても最初のうちだけだ。だから、店側もそのことを理解して準備をしておく必要がある。

例えば、お子様向けの絵本や塗り絵、パズルなどを用意しておいてはどうだろうか。ネットで調べると、意外と安い値段で売っている。子供が我慢できずに動き始めたタイミングを見計らって塗り絵などをプレゼントしよう。30分くらいはじっとしている可能性がある。多少の投資にはなるが、「親」「子供」「店」三方良しのアイデアだと言えるだろう。

突っ込んだ質問をしてくる同業者や開業予定者

筆者が経営していた店は、情報誌だけでなく、飲食業の専門誌にも多く取り上げられていた。これから開業される予定の方や同業者も多く来店していたというわけだ。そういう人々は、お店を舐め回すように見ているのでだいたいすぐにわかる。内装や食器、メニュー表について見たり話していることが多い。もちろん、自分の店が誰かの参考になれば嬉しいことなので大歓迎である。

困るのは、会計の時などに状況を考えずにいろいろ質問をしてくる人達だ。「パスタのレシピを教えてください」「内装費はどれくらいかかりましたか?」「どれくらいで軌道に乗りましたか?」「未経験でも成功できますか?」などなど。営業中に立ち話で簡単に答えられるようなものではないし、近くに一般のお客様がおられることも配慮していただきたいものだ。

しかし、できれば協力したいと考える良心的なオーナーもいるだろう。その場合は、ショップカードや名刺などを渡して、後日改めて連絡してもらおう。質問をメールで送ってもらってもよいし、定休日などに時間を作ってお会いするのもいいだろう。

ほかにも、閉店時間を過ぎても帰ってくれない客など、嫌だと思う客は色々いるが、ほとんどが店側の考え方次第で解決するように思う。絶対にお客様だけが悪いわけではない。

前述の通り、何かを禁止したり、お願いをすることは非常に難しい。ルールを作ってしまうと心から楽しめるお店ではなくなるからだ。かといって、何でも客の自由というわけにはいかない。飲食店は、食の喜びや、楽しい時間の過ごし方を提案するものである。それが根底にあれば、ほとんどの問題は解決していくだろう。

文・大槻洋次郎/提供元・Foodist Media

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