近年の気候の変化で台風による被害が日本中で大きくなってきました。2019年10月には関東地方に台風が相次いで直撃し、被害の大きかった千葉県をはじめ、東京近郊でも多摩川が氾濫しました。ここ数年急速に人気を集めてきたエリアが冠水するなど、大きな被害が出たのも記憶に新しいでしょう。

埼玉から東京東部を流れる荒川の堤防はなんとか決壊を免れたものの、水位は危険な水準に及びました。荒川が氾濫すれば、ゼロメートル地帯と言われる東京東地区が水に浸かってしまうといわれています。「亜熱帯化」がささやかれる日本において、治水技術が追い付かず、河川が氾濫するケースは今後も発生すると考えられます。そこで期待されているのが、増水時に地下に水を貯める施設です。その風貌から「地下神殿」と呼ばれ、注目を集めています。

地下神殿としてメディアでも広く紹介され、有名になっているのが埼玉県の東部、春日部市にある首都圏外郭放水路です。国道16号の地下約50メートルの場所に、全長約6.3キロメートルの放水路が設置されています。雨水で増水した河川の水を貯め、トンネルを経由して江戸川に排出するようにできています。

写真に見えているのは、地下のトンネルから流れてきた水の勢いを弱めて、スムーズに流すための巨大プールのような「調圧水槽」です。その姿が、あたかもギリシアのパルテノン神殿の柱や空間に見えるということで、地下神殿と呼ばれるようになったそうです。

2019年の台風でも、地下神殿こと首都圏外郭放水路は活躍しました。2015年に茨城県の鬼怒川が氾濫した関東・東北豪雨以来2回目となるフル稼働だったといいます。地下神殿で一度に貯められる水量は67万立方メートル。池袋のビル「サンシャイン60」の容積と同程度です。10月12日から14日朝までに1,000万トン、サンシャイン60ビル15杯分の水を排出した計算になります。

地下神殿へのツアーが大人気

人々の生命を守る重要な役割を担う美しき地下神殿を見てみたいという人はたくさんいます。国土交通省が主催していた見学ツアーは非常に人気が高く、さまざまなメディアによって取材活動が実施されました。また、春日部市は世界に誇る防災システムであるとして巨大地下神殿を「防災インフラ観光施設」として売り込む考えです。現在は春日部市主催となり有料で行われている見学ツアーは、3つのコースがあります。

「迫力満点!立坑体験コース」「深部を探る!ポンプ堪能コース」「気軽に参加できる!地下神殿コース」の3つのうち、最も高額なのは迫力満点!立坑体験コースの1人3,000円。定員は20人、所要時間は100分です。作業員用通路を歩き、立坑内の階段を降りながら、70メートルの深さを楽しめるといます。その魅力を分かりやすく理解できるようになっています。

首都圏外郭放水路だけかと思っていた地下神殿ですが、ほかにも存在しています。関西では、大阪寝屋川流域の治水施設が話題になっています。地下25メートルの巨大な空間は、トンネルが11キロメートル先まで伸びています。1981年に工事が始まり、人工の地下河川として、大阪東部の水害から人々の生命を守る切り札として期待を集めています。

今後の動きとしては、東京の石神井川に治水施設を建設中です。練馬区と板橋区にまたがる城北中央公園に、地下調節池ができる予定です。今後想定される台風被害を考えると、少しずつ日本の気候が変わりつつある中で、河川の治水対策は非常に重要な施策になってきます。

この取り組みを単なる公共事業として進めるのではなく、地下神殿という観光施設としてアピールした春日部市のように、サプライズのある取り組みとして開拓できれば、社会的に意義のある取り組みと、「おもしろいこと」を共存させることができるかもしれません。

文・J PRIME編集部/提供元・J PRIME

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