レースマナー

一方、ポールを狙う山内の心理はどうだったのか? Q1のBグループでは、60号車が井口のタイムを上回っており、さらにQ2でタイムアタックするときに、クリアが取りづらい状況になっていた。

「Q1での60号車のタイムは、別になんとも思いませんでした。抜けるタイムだという自信はありましたから。でも、タイムアタックしているときに18号車が接近していて、空力的に影響する部分もあったと思います。あのアタックのやり方はないですよね。結局、最後スリップに入ってトップタイムが出せたので良かったですけど、途中苛立って暴言を吐いてました。そうしたら無線で『集中、集中!』って聞こえて冷静さを取り戻せました」と山内は話す。

GT300はほぼ同時にコースインをし、おおむね均等間隔でウォームアップをする。そして3周目、4周目でタイムアタックという流れで全車が走行するが、そのタイミングとは異なる走行をしていたようで、山内のアタックに影響が出ていたのだ。

また、山内は「Q1のあと卓ちゃんから的確なコメントをもらえたので、それを信じてマシンに変更を加えてもらいました。これがバッチリでした。最強コンビが証明できたと思います」とコメントしている。このときの処理が前述したリヤウイングの調整というやつだ。

こうしてポールポジションを獲得したドライバー、チーム、そしてマシンは絶好調だ。新型BRZ GT300が高い戦闘力を持っていることを誰もが実感したことだろう。けっして「得意」とは言いづらい富士でのポールポジションなのだから下馬評どおりのポテンシャルを見せたわけだ。

決勝のチームワーク

迎えた決勝。スタートドライバーは山内。スティントは山内2回、井口1回の組み合わせ。そしてスタートタイヤは「A」が選択され、Q1で使ったタイヤが指定された。BRZ GT300はソフトでのスタートになった。

スーパーGT2021富士スピードウェイ SUBARU BRZ GT300 2位フィニッシュ
(画像=予選を走ったタイヤとは、とても見えないキレイさを保っているブリヂストン・タイヤ、『AUTO PROVE』より引用)

「タイヤ戦略はレース展開次第と摩耗状況を見ながら判断していきます。スタートがソフトなので次はハードもソフトも新品でいけます。そこでスティントをロングにするか、ショートにするかとか、状況次第で決めます」と小澤総監督。

山内は堅実にトップを快走し、途中FCYもあったが問題なくリードを保っている。序盤は60号車のGRスープラと55号車NSX-GT3、11号車、10号車ゲイナーチームのGT-R2台、そして52号車のGRスープラの計5台を引っ張りながら、5秒以内で展開する。

36周目、最初のピットインでBRZ GT300はソフトタイプのユーズドへ4本交換し、井口に交代した。一方、ブリヂストンを履く52号車は24周目に1回目のピットインをし、タイヤ無交換でピットアウトしている。井口は9位でコースに戻るものの、ピットインを済ませたマシンで見れば4位で復帰したことになる。

レース後、井口になぜユーズドを選択したのか聞いてみた。「混戦になるのは分かっていたので、最後のスティントでソフトの新品をヤマちゃんに履いてもらい、順位を挽回してもらうためです。ユーズドと言っても5ラップ程度のタイヤなので、プッシュできますし、でも後ろからも速いのが来ていて難しい展開でした」

BRZ GT300の熟成領域へ

73周目に再び山内へバトンタッチ。ソフトのニュータイヤでコースに戻る。このとき給油時間は短く、順位を落とすことなく4位でコース復帰した。76周目にはトップ5台の中で山内がトップタイムでラップを刻んでいる。そのため周回ごとにトップ52号車とは毎周回で1秒弱縮める展開となり、狙いどおりの展開となったわけだ。

スーパーGT2021富士スピードウェイ SUBARU BRZ GT300 2位フィニッシュ
(画像=終盤55号車をパスして3位に浮上した山内のドライビング、『AUTO PROVE』より引用)

山内は83周目に、3位を走る55号車NSX-GT3を捉え浮上。そして2位の60号車とは2.5秒差まで迫ることができた。その後FCYが1回入り、レース再開後、山内はトップ52号車と6.220秒差、2位60号車とは0.218秒差まで追い詰めていた。

結果的には、52号車が96周目にマシントラブルで離脱し、60号車との一騎打ちになった。が、1秒以下での接近戦に持ち込むものの、交わすところまでは行かず2位フィニッシュとなった。

山内からは「悔しい、本当に悔しい。応援してくれた皆さんに本当に申し訳ない」とまるで敗者の弁だ。また、60号車については、「同じGT300規定、同じダンロップなので、抜きたい気持ちはありましたけど、接近しても『これは抜けないな』という感じでした。何が足りないかと言えば、このタイヤに対するマネージメント力で、ロングランのテストができていないから細かなセットアップに差があるのだと思います。BRZの今の力がここまでという印象です」と話す。

筆者の想像だが、おそらくタイヤ性能が落ちたときに、ラップタイムを落とさないようにするためのセットアップとノウハウの不足という意味に思える。レース中に燃料が軽くなり、かつタイヤが落ちた時のバランス調整がやり切れていないことや、ロールを制御できるアンチロールバーなどもあり、そのデータが足りないという意味だろう。それは熟成領域とも言えるのではないか。

1周4.563km×103周=470kmを3時間4分走り、トップとは0.712差でゴールした。途中、給油しタイヤ交換もする。ドライバーも交代しての僅差のレースについて、小澤総監督は「2位フィニッシュを受けて、足りなかったものと言えば、決勝で0.1秒でもラップタイムを上げられるマシンにすることですかね。52号車は異次元の速さだったので、もしトラブルがでなければ完敗です」というコメントだ。

チーム、ドライバーズランキングは共に4位。次戦の鈴鹿にはサクセスウエイト48kgが搭載される。鈴鹿はタイヤへの攻撃性が富士より高いため、ブリヂストン勢は無交換作戦を取りにくいはずだ。もっとも得意とする鈴鹿では、ウエイトハンデを押しのけ、ポイントを獲得したい。シリーズチャンピオンを目指すBRZ GT300は鈴鹿でも高ポイントゲットを狙う。


文・高橋明/提供元・AUTO PROVE

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