ユーモラスなCM続々
イタリアの過去報道を振り返ってみると、2016年時点のフォルクスワーゲンはラジオおよび新聞広告に注力している。たしかに当時は、運転中ラジオを聴いていると、かなりの頻度でVWのCMが飛び込んできたものだ。
そう思って、今回の執筆を機会にラジオを聴いてみた。だが待っているとダメなもので、早々にフォルクスワーゲンの広告が流れない。
ふと思いつき、手元にあるタブレットコンピューターのスイッチを入れると、たちまちフォルクスワーゲンの広告が、記事を覆うように現れた。
それは地元販売店の広告だから、前述の統計には該当しない思われる。それでも、末端のディーラーにまで、告知の重要性が伝わっていることは明らかだ。
そうした販売店の広告は、「T-Crossが月129ユーロ(約1万6千円)から。利息4.76% エコカー減税適用車」といった、いわばお買い得情報ばかりである。街なかに立っている屋外広告もしかりだ。
筆者としては、1950〜70年代にフォルクスワーゲンが広告代理店「DDB」と共に米国で展開したような、粋な広告を期待してしまう。アメリカ車が恐竜のように巨大だった時代、敢えて初代ビートルの小さな写真を広告の隅に掲載し「Think small」のコピーをあしらった、あのセンスである。
ところが、調べてみると、DDBのイタリア法人は、「Think small」ほど哲学的ではないものの、近年イタリア市場向けに面白いCMを制作していることが判明した。
たとえば、「イタリア国内でも海外でも使い放題」のキャッチで始まるCMは、一瞬モバイルWi-Fiルーターの広告か?と思いきやT-RocのCMだった、というのがあった。
かと思えばクルマとは直接関係ない“啓蒙型”CMもある。人が部屋から去ったのを検知して自動消灯するツリー用省エネ型飾り「フォルクスワーゲン クリスマス・アシストボール」の紹介だ。フォルクスワーゲン販売店で買えるマーチャンダイジング商品の雰囲気をぷんぷんと漂わせている。
しかし最後には「ときに、知性は技術よりも優秀です」「要らない電気は消しましょう」のテロップが流れる。つまり、節電のススメである。
2018年には“自虐型”もあった。ずばり「子どもがフォルクスワーゲンに憧れるのは難しい」といってのける。
それを表現すべく映し出されるのは、スタイリッシュなスポーツモデルに見とれる少年少女たちである。
ポルシェ、ランボルギーニ、ブガッティといったフォルクスワーゲン・グループ系モデルだけでなく、デロリアンDMC12やダッジといった直接関係ないブランドまでが登場するところに、フォルクスワーゲンの太っ腹ぶりを感じる。
結末はというと、ブガッティに見とれて道路にふらふら出てきてしまった子どもの前で、ゴルフ7のプリクラッシュブレーキシステムが作動する。そこに「彼らに夢を見させ続けましょう」のテロップが重なる。子どもたちに憧れられる存在ではないが、彼らをきちんと守っている、というわけだ。
傑作は、ティグアンのものである。給油中、密かに後席に潜入した若者2名。彼らから「手を上げろ!」と言われたドライバーは、いわれるままステアリングから手を離す。するとレーンキープアシストシステムが作動して見事走行。前方の駐車中車両に衝突しそうになると、今度はプリクラッシュブレーキシステムが働く。
若者たちは「ふたりで(システムが本当に作動するか)賭けをしてたんだよ」と弁解して、そそくさと降りてゆく。
待てど暮せど出てこない
いずれも往年の米国版DDBには及ばぬものの、楽しいCMである。にもかかわらず、筆者が遭遇するのは例の地元販売店の広告ばかりで、それらを見逃してしまっていたのは、なぜか?
第1は個人的にあまりイタリアのテレビを観ないこと、第2に近年のインターネット広告の特性がある。
後者に関して正確にいえば、ユーザーの嗜好が如実に反映されるためだ。夜、筆者が歯磨きの時間になると、かなりの確率で我が家のスマートテレビにYouTubeからマウスウォッシュ液のCMが現れる。いつも使用しているメーカーのものだ。子どもの頃読んだSFの世界が現実になって久しい。
だが、フォルクスワーゲンのCMに遭遇する場面が少ない。
我が家には3種類のスマートスピーカーがある。彼らが聞き取っているに違いない。そこで先日から「フォルクスワーゲン、フォルクスワーゲン」とひたすら唱えてみた。
しかし、フォルクスワーゲンのCMは画面に現れない。
もしかして筆者は、フォルクスワーゲンの潜在顧客とみなされていないのか? そう思うと、ちょっぴり悲しくなってきた。
(文と写真 大矢アキオ Akio Lorenzo OYA)
提供元・8speed.net
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