人口減少時代の日本に降りかかる問題点
著書のベストセラー『未来の年表』『未来の年表2』で、統計データをもとにこれからの日本に起こる様々なことを予測し、読者に衝撃を与えた河合雅司氏。激変するであろうこれからの数十年で、我々の働く職場はどのように変わるのか。変化にうまく適応するにはどうすればよいかをうかがった。
交通機関の路線縮小で、会議に遅刻が頻発する?
これから少子高齢化、人口減少が進むことはわかっていても、その実態を正しく把握している人は多くありません。しかし、これから訪れる変化は私たちの働き方や職場のあり方を大きく変えることになります。
国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、今後20年近く高齢者は増え続け、2042年にその数はピークを迎えます。これを境に、若い世代だけでなく高齢者の数も減り始めて、社会全体が縮み始めます。そうなれば、私たちが今見ている社会そのものが激変します。
例えば、鉄道やバスの路線廃止は、人口減少によって間違いなく起こるであろう変化の一つです。しかも、過疎が進んだ地方だけでなく、東京や大阪などの大都市圏でも路線が減らされることが予想されます。
すでに東京都の西部を走るJR青梅線や五日市線が運行本数を減らしたり、神奈川県を走るJR横浜線で相模線からの直通列車の一部が廃止されたりしています。今後さらに公共交通機関の利用者が減れば、運行本数も減り、通勤や仕事中の移動にも影響を与える可能性は大いにあるでしょう。
「今までは余裕で間に合っていた会議に遅刻してしまった」といったことが頻繁に発生し、スケジュールの見直しを余儀なくされるビジネスパーソンは多くなるはずです。
リーダーになる世代が親の介護で不在がちに
路線の廃止・縮小までいかなくても、高齢者が増えれば思いがけない変化が想定されます。現在は定刻通りに走っている電車やバスも、乗り降りに時間がかかったり、手助けを必要とする高齢者が多数になれば、遅延が発生しやすくなります。
これまでは15分で移動できた取引先に30分かかるようになれば、それだけで労働生産性は下がるでしょう。こうした変化が社会のあちこちで起こるようになるのです。
これから増えるのは、80代以上の高齢者です。個人差はあるものの、80歳を超えると耳や目の機能が低下したり、理解力や判断力が衰えたりして、生活の質は下がるのが一般的です。
そして、この世代を親に持つ40代や50代の管理職世代は、親が高齢化した影響を否応なしに受けることになります。重要な会議の最中に実家の親から携帯電話に着信があったので、何かあったのかと慌てて離席して出てみたら、「瓶のフタが開けられない」といったささいな用件だったという話はよく耳にします。
職場のリーダーとして重要な役割を担う世代が、こうした形で頻繁に仕事を中断することになれば、組織の生産性にもマイナスの影響を与えかねません。
それでもまだ親が元気に暮らせるうちはいいのですが、介護が必要になれば、40代や50代でも離職せざるを得ないケースが出てきます。
現時点でも介護離職は大きな課題となっていますが、ある大企業が社内アンケートをしたら、「社員の7人に1人は介護離職の可能性あり」という結果が出て経営者が驚いたという話もあります。
離職まで至らなくても、「親を病院に送るので出社が遅れる」「デイサービスから戻ってくる親を迎えなくてはいけないので早退する」といった必要に迫られる人は、さらに増えるはずです。
「通勤しない」働き方がスタンダードになる
働き手の数が減る中で、今まで通りに働けない人が増えれば、企業も対応せざるを得なくなります。そもそも、「毎日通勤して、一つの場所に社員が集まって働く」という会社に対する概念そのものが変化すると思います。
親のそばにいながら在宅で仕事をするとか、地域ごとにサテライトオフィスを設けて自宅や高齢者施設の近くで働くといったワークスタイルが当たり前になるのではないでしょうか。
これは介護中の社員への対応という側面だけではありません。若い世代の貴重な労働力と時間を最大限に活用する手段としても必要になると考えられます。日本全体の高齢化が進むのに伴い、「オフィスの高齢化」も進行します。
約40年前は若い世代ほど多かったのが、最近は40代が最多で、50代以上の割合も増えています。この高齢化は今後さらに進み、国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、2040年には勤労世代の3分の1を50代以上が占めるとされます。
そうなれば、限られた若い世代の労働力をいかに最大化するかを考える必要が生まれます。その解決策の一つが、先ほどの多様なワークスタイルの実現になるわけです。
通勤中は、基本的に生産も消費もできません。若い世代は働き手であると同時に、大事な消費者であり、地域の担い手になるべき人材です。その若者たちの貴重な1時間や2時間を通勤のために奪っていいものか。
もっと在宅やサテライトオフィスでの勤務を拡大して、これまで通勤に費やしていた時間を有益に使ってもらうべきではないのか。そんな議論がどの企業でも出てくるはずです。
賃金労働だけが社会を支える手段ではありません。ボランティアや地域の活動への参加や、余暇を楽しんで消費を促進することも、社会を支える手段です。支える側より支えられる側が増える中、若者が仕事以外に使える時間を増やすことは、社会全体にもメリットがあるのです。
古い働き方を続けると若手が寄りつかなくなる
さらには、限られた労働力を複数の組織でシェアする仕組みが生まれる可能性もあります。日本全体で労働人口が減っていくのに、それを会社同士で奪い合っていたら、日本経済は立ち行かなくなります。
ですから、一人の人間が複数の組織で仕事を掛け持ちしたり、「1年のうち半年はA社に勤務し、残り半年はB社に勤務する」といった働き方ができたりする枠組みやルール作りが必要になるでしょう。それを可能にする企業連合体が誕生するかもしれません。
昔から農業では、農作物ごとの繁忙期に合わせて働き手が様々な場所へ移動し、労働力を共有しながら農業経営を成り立たせてきましたが、オフィスワーカーも似たような働き方になる可能性があるわけです。
これは派遣社員やアルバイトなどとは違い、正社員と同様に安定した身分や立場を保障したうえで、人材の流動化を促進する仕組みが想定されます。
守秘義務やセキュリティの関係で難しい仕事もありますが、それ以外にシェアできる業務は会社の中にたくさん存在します。この点でも、「毎日同じメンバーが一カ所に集まって仕事をする」という現在の「会社」に対する概念は、やはり古いものになっていくだろうと考えます。
このように流動的かつ柔軟な働き方ができる仕組みを持たない会社は、若い人たちから敬遠されるでしょう。以前のように若い世代が次々と入ってきて、職場がうまく世代循環していた頃は、若手も「ここで頑張っていれば、自分もいつか権限が持てる」と思えました。
しかし、若い世代が減り、いつまでも上の世代だけが権限を持ち続ければ、若手のモチベーションは低下します。すると働きがいを求める若い世代は会社を辞めていくでしょうし、さらに下の世代の学生たちは、就職時点でそんな会社を選ばなくなるでしょう。
古い働き方を社員に強いる会社は、ますますオフィスの高齢化が進んで、組織の停滞やマンネリが進行することになります。
目指すべきは小さな稼げるビジネス
組織、個人のどちらにも大事なのは、変化を前提に未来を考えること。「今のままでなんとかなるだろう」という考え方はもはや通用しません。ただ、これから起こる変化を恐れたり、マイナスに捉えたりする必要はありません。これだけの大きな変化は、チャンスでもあるからです。
今後は間違いなく、高齢者向けのサービスや商品のマーケットが拡大します。そのニーズに応える新たなビジネスを立ち上げれば、時代が変化しても利益を上げられる組織を作れます。
しかも人口減少の時代には、大きなビジネスを目指す必要はありません。長らく日本企業の成功パターンであった大量生産・大量販売モデルは、人口増加の時代だから成立しました。
今後は国内市場が縮小するのだから、スモールビジネスを目指せばいいのです。全体の売上高や利益は小さくても、社員一人当たりの数字では大企業を上回ることができれば、「成長するビジネス」として十分やっていけます。
そもそも人口が減れば、多くの企業は現状維持できなくなり、働く人たちも、職場の仕組みや環境の変化を前提に将来の人生設計を描くことが求められます。若い世代が減る中で一定の労働力を確保するため、定年制を廃止する会社も増えるでしょう。
会社の外に出て可能性を広げよう
働く個人としても、40代以下は上の世代のように昇格・昇給し、退職金や年金を多くもらえないので、「働けるうちは働く」という意識が必要となります。
そのためには、今のうちから技能の習得や人脈作りなどに励み、いつまでも組織に必要とされるための努力が不可欠です。あるいは会社の外へ出て、今いる組織とは別の場所で自分の能力や経験を生かせないか探ってみるのもいいでしょう。
最近は、都会で働く若者たちが週末や有給休暇を利用して地方に出かけ、ボランティア活動や農業体験をしながら、都会にはない自分の可能性を探っている姿が数多く見られます。ミドル世代もこうしたチャレンジをすれば、新たな自分の活躍の場を見出す可能性は十分あります。
自分が高齢者になるまでの助走期間で、変化に対応する力を磨くことが、これからの未来をポジティブに生きる秘訣です。
河合雅司(かわい・まさし)
人口減少対策総合研究所 理事長/作家・ジャーナリスト
1963年、名古屋市生まれ。中央大学卒業。産経新聞社論説委員を経て、一般社団法人「人口減少対策総合研究所」理事長に就任。現在、高知大学客員教授、大正大学客員教授、日本医師会総合政策研究機構客員研究員など多くの職務を兼任。厚労省をはじめ政府の各有識者会議委員も務める。ニッポン放送のニュース解説番組『ザ・フォーカス』(18:00~20:20生放送)のレギュラーコメンテーター。新聞、雑誌などで複数の連載も手掛ける。2014年に「ファイザー医学記事賞」の大賞、18年にNPO法人ひまわりの会「ひまわり褒章」の個人部門賞、19年に「第80回文藝春秋読者賞」など受賞多数。人口減少日本で起きることを克明に描いた著書『未来の年表』(講談社現代新書)、続編の『未来の年表2』(同)、最新刊の『未来の地図帳』(同)はいずれもベストセラーとなり、累計で86万部(2019年9月末日現在)を突破した。これら以外にも『日本の少子化 百年の迷走』(新潮社新潮選書)、『河合雅司の未来の透視図』(ビジネス社)、『マンガでわかる未来の年表』(講談社、漫画・水上航、監修・河合雅司)など数多くの著書がある。(『THE21オンライン』2019年12月09日 公開)
提供元・THE21オンライン
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