しかも、その加熱は一部の骨(頭や四肢の端など)に集中し、全身が均一に焼かれているわけではありませんでした。

この発見は、ただの焼却や自然腐敗とは明らかに異なる「人為的なミイラ化」――とくに「煙による燻製ミイラ化」――が、東南アジアの狩猟採集民によって1万年以上も前から行われていたことを示しています。

現代に続く「燻製ミイラ」の文化

この燻製ミイラ化の技術は、現代の一部の民族にも脈々と受け継がれています。

例えば、パプアニューギニア高地に住むダニ族や、オーストラリア先住民の一部のグループでは、今なお「死者を煙で燻して保存する」葬送儀礼が続いています。

遺体は強く縛られ、火の上で何週間もじっくり燻されて真っ黒に乾燥し、家の中や特別な場所で長く大切に保管されるのです。

なぜ、こうした「煙のミイラ化」が広い地域で受け継がれたのでしょうか?

それは単に保存のためだけでなく、「祖先と生きている者とのつながりを保つ」という精神的な意味があったと考えられます。

現代のパプアの人々の間でも、「祖先の魂は夜になるとミイラの体に戻ってくる」と信じられている地域もあるのです。

さらに、遺骨に残る切断痕や“ばらばら”になった骨の配置も、死後の体液排出や、燻製の工程、あるいは儀礼的な目的によるものと考えられています。

単なる解体ではなく、「祖先を永くそばに置く」ための複雑な技術と信仰が重なり合っていたのです。

こうした「燻製ミイラ」は、現代でも民族的・文化的な多様性を物語る貴重な存在であり、人類の死生観や先祖崇拝の起源を探る上で重要なヒントを与えてくれます。

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参考文献

Oldest Human Mummies Discovered, And They’re Not What We Expected
https://www.sciencealert.com/oldest-human-mummies-discovered-and-theyre-not-what-we-expected