チームは最新の装置を使い、泥岩の組成や鉱物分布を徹底的に解析。
その結果、有機物と鉄リン酸塩・鉄硫化鉱物が共存し、しかもそれらが“レドックス反応(酸化還元反応)”という電子のやり取りを通じて、低温の環境でできたと判明しました。
地球では、こうした鉱物は「微生物が有機物をエサにし、鉄や硫黄を“呼吸”して生きていた痕跡」として多く見つかります。
つまり今回の火星の地層は、地球の太古の微生物の活動痕ととてもよく似ているのです。
生物の痕跡か、自然現象か?
もちろん、これだけで「火星にかつて生命がいた」と断言することはできません。
チームはまず、これらの構造や鉱物がすべて化学反応だけで作られた可能性(非生物的起源)を慎重に検証しました。
有機物が存在することで鉄酸化物が還元されたり、硫化物ができたりする現象は、地球上でも高温下や特定の化学条件で非生物的に起こることがあります。
ところが、ブライトエンジェル層の岩石には、高温加熱や熱水活動の証拠が全く見られませんでした。
低温で、しかも水が豊富にあった環境下で、こうした特徴がこれほど大量に形成されるのは、地球でも主に微生物の働きが必要とされる現象です。
こちらは火星にかつて存在した水が、時間経過の中で消失する様子を短縮して再現したもの。
さらに今回見つかった「有機物と鉄鉱物の複雑なセット」は、現代の海底や湖の底で微生物が生きていた痕跡と酷似しています。
とくに、鉱物内部に亜鉛(Zn)やニッケル(Ni)も多く見つかったことは、鉄や硫黄を利用する生物が活動した証拠と地球では解釈されています。
このため論文の著者らは「今回の発見は、火星の生命存在を示唆する『潜在的バイオシグネチャー(生物由来の可能性がある証拠)』であり、これまでで最も確実なもののひとつ」としています。
ただし、生物起源と断定するにはさらなる決定打が必要です。
幸い、今回の岩石サンプルは、パーサヴィアランスが密封チューブで地球帰還用に回収済みです。