この手法は、同じ被験者に複数の大学や病院の異なるMRI装置で順番に脳の撮影を受けてもらい、装置ごとに生じるわずかなデータのズレ(ノイズ)を正確に測定することで、全てのデータに補正を加えるというものです。
これは理屈としてはばらつきを補正する非常に優れた方法ですが、実際には大規模な協力体制と多くの技術的・資金的なサポートが必要となるため、これまで本格的に実施されることはありませんでした。
今回の研究では、複数の大学が協力し、このTS法を全国規模で初めて本格的に導入したというのが大きなポイントです。これによって、ADHDの子どもたちとそうでない子どもの脳画像を、公平な基準で比較できるようになったのです。
研究グループはこうして、ADHDの子どもとそうでない子ども、計294名(ADHDの子ども116名、定型発達(健常)児178名)の脳画像を比較しました。ここでは、年齢や性別、知能指数(IQ)などの違いも統計的にしっかり調整されています。
ではADHDは本当に脳のつくりに違いがあったのでしょうか? これまで曖昧だった部分がここから明らかになりました。
努力では解決できないADHDの“脳のちがい”が見えてきた
TS法を用いた今回の研究では、ADHDの子どもたちとそうでない子どもたちの脳を、これまでにない精度で比べることができました。
その結果、ADHDの子どもたちの脳には、実際につくりの違いがあることがはっきり示されました。
特に大きな違いが見つかったのは、「中側頭回(ちゅうそくとうかい/Middle Temporal Gyrus)」という部分です。
この場所は、ものごとに注意を向けたり、情報を整理したり、感情をコントロールしたりする働きを持っています。
ADHDの子どもたちでは、この中側頭回の灰白質の体積が少し小さくなっていました。その差は統計モデルでも偶然ではないと確かめられています。