「テロリストによる人工衛星のハッキング」は、フィクション世界ではすでにお馴染みの設定となっています。

しかし、現役のハッカーに言わせると、特定の機材とアップリンク(※)へのアクセスさえあれば、人工衛星は簡単にジャックできるというのです。

(※ アップリンク:人工衛星を用いた通信・放送・中継を利用するときに、地上局から衛星に向けて送信される通信経路のこと)

アメリカのセキュリティ研究者で、通信機器や組み込み機器のハッキング集団「Shadytel」の一員であるカール・コーシャ(Karl Koscher)氏は、2021年に米ラスベガスで開催された世界最大の年次ハッカー会議「Def Con」にて、2020年に運用終了したカナダの人工衛星をハッキングすることに成功したと報告しました。

もちろん、この人工衛星へのアクセスは、カナダ当局の公式な許可を得て行われたデモストレーションです。

しかし一体どのように衛星をハッキングするのしょうか?

目次

  • カナダ当局の許可を得て、ハッキングを実演
  • 人工衛星をハッキングすると何ができる?
  • 人工衛星を乗っ取るのは簡単?

カナダ当局の許可を得て、ハッキングを実演

コーシャ氏とShadytelのチームがハッキングしたのは、カナダの放送衛星「Anik F1R」です。

この衛星は、カナダの放送局を支援する目的で2005年に打ち上げられ、2020年に役目を終えた後、2021年11月に「墓場軌道(graveyard orbit)」へ移動する予定になっていました。

(墓場軌道:役目を終えた人工衛星が、運用中の衛星とぶつからないように移動する、高度の高い軌道のこと)

運用中は地上から約3万6000キロ上空の「静止軌道(geostationary orbit)」にありますが、墓場軌道へ移ると、通常の通信はできなくなります。

カナダの人工衛星「Anik F1R」
カナダの人工衛星「Anik F1R」 / Credit: space.skyrocket