しかし、この大規模な異変にもかかわらず、長い間、原因は分かりませんでした。
当初はウイルス(densovirus)が疑われましたが、健康なヒトデにも普通に見られるウイルスだったため、決定的な証拠にはなりませんでした。
また、死んだヒトデの組織を調べても、「これだ!」という病原体は見つかりません。
研究チームはここで発想を転換します。
「死骸」や「組織片」ではなく、“生きているヒトデ”の体内液を徹底的に調べるという新しいアプローチをとったのです。
最先端の遺伝子解析によって調査したところ、Vibrio pectenicida(FHCF-3株)という細菌が、壊死症状を示すヒトデの体液から突出して多く検出されました。
では、この菌が50億ものヒトデを殺した犯人だったのでしょうか。
50億以上のヒトデを死に追いやった犯人を特定!なぜ発見が遅れたのか?
「ヒトデの体内液にVibrio pectenicidaが多い」というだけでは、犯人と断定できません。
そこで研究チームは、感染症の原因を証明するために分析しました。
まず、病気のヒマワリヒトデの体液からVibrio pectenicida FHCF-3株を純粋培養で取り出し、これを健康なヒトデに注射・曝露させました。
その結果、数日以内に健康だったヒトデが次々と「体表に傷ができ、腕が取れ、体が溶けていく」という壊死病の典型的な症状を発症。
こうして、Vibrio pectenicida FHCF-3株こそがヒトデ消耗病の直接的な原因であることが科学的に確定しました。
では、なぜ今までこの犯人が見つからなかったのでしょうか?
その理由は大きく二つあります。
第一に、Vibrio菌は死んだヒトデの中ではすぐに消えてしまうため、従来の「死骸調査」ではほとんど検出できませんでした。
ヒトデが死ぬと、体内や表面の環境が急激に変化(免疫が止まり他の微生物が一気に増加)するため、死後すぐに調べないと他の細菌たちに上書きされるのです。