では、なぜ分かれた胚が再び正しい位置情報を回復し、完全な体を作り直せるのでしょうか。
この「体の軸の再構築」の仕組みは、100年以上にわたり未解明のままでした 。
細胞の自律的な力とシグナルの再起動
研究チームは、最新のライブイメージング技術や分子生物学的手法を駆使し、バフンウニの2細胞期胚を人工的に半分に分け、その後の発生を詳細に観察しました。
1. 半胚の形態変化
観察の結果、半分にされた胚は通常の完全な胚とは異なる道をたどりました。
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最初は平らなシート状に細胞が並ぶ
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次にカップ状に変形
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さらにカップの縁が閉じて球状になり
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最終的には正常な胚に似た小さな胞胚へと発達
この過程で、細胞数が増えたわけではなく、細胞1つ1つの形が変わることによって全体が丸まっていくことがわかりました。

2. 形態をつくる力の正体
この「平板→カップ→球体」への変形には、細胞内部のアクトミオシン(アクチンとミオシンの複合体)が生み出す収縮力が関与していました。
また、細胞同士を強く接着させる構造であるセプテートジャンクションも重要な役割を果たしていました。
これらが協調的に働くことで、切り離された半胚でも細胞同士が結束し、自己組織的に丸い構造を再形成できるのです 。
3. 体軸の再構築
さらに遺伝子発現を追跡すると、球体化の過程で前後軸が一時的に崩壊し、本来は離れている前端(頭側)と後端(尾側)が隣接することが確認されました。
しかしその後、Wnt/βカテニンシグナル(胚の発生や再生を制御する代表的な細胞内シグナル伝達経路の一つ)が一時的に再活性化され、前端を決定する遺伝子 FoxQ2 の位置が修正されることで、軸が正しく再構築されることがわかりました。
