今回、実際に目で見えるサイズで実証された時間結晶は、ただ面白い現象というだけでなく、私たちの生活を豊かにする新技術につながる可能性を秘めています。

その中でも特に注目される応用の一つが、偽造防止技術です。

紙幣やパスポートのような大事な書類に、この時間結晶を利用した特殊な薄い液晶膜を組み込めば、普段は静止した普通の模様にしか見えませんが、特定の光を当てると模様が一定のリズムで変化を始めます。

まるで隠された「時間の透かし」のように模様が動き出すため、普通の透かしや印刷技術では真似できず、新しい偽造防止タグとして役立つと期待されます。

しかも液晶材料と非常に少ない色素だけで実現できるため、コストも低く抑えられる可能性があります。

また、時間結晶は情報の記録技術にも大きなインパクトを与えるかもしれません。

現在、私たちがスマートフォンなどで使っているバーコードやQRコードは、二次元の静止したパターンで情報を記録していますが、時間結晶を使えば、そこに「時間」という新しい次元を追加できます。

つまり、パターンが時間とともに変化する「2次元+時間」の三次元バーコードが可能になります。

同じ大きさのバーコードでも、パターンが動いて変化することで、格段に多くの情報を入れることができます。

研究チームの計算によれば、この方法なら1秒間に10万ビットを超える情報を理論上記録できる可能性があると見積もられており、これは動画のように変化するバーコードを作るイメージです。

さらに、このような時間変化を利用したバーコードは多少のノイズや誤差にも強く、情報伝送におけるエラーの発生を抑えることが期待されます。

液晶の時間結晶は、光を扱う技術にも新たな可能性を与えるでしょう。

例えば、現在の光通信は情報を光の明るさや波の向き(偏光)の変化で伝えていますが、時間結晶を使えばこれらを特定のリズムで周期的に変える特殊な光学素子(光を制御する部品)を作ることができます。