私が進めていたある開発工事の現場代理人は毎週行われていた現場の打ち合わせの際、メモをとることを全くしませんでした。初めは全部頭に入っているのか、と思ったのですが、そうでもなさそうです。「打ち合わせの時に言ったのに…」というケースが何度があったので現場代理人の上司である社長に「どうにかしてよ」と何度か改善を求めたのですが、結局、最後の最後までスマホ1つ、そのスマホに文字をインプットすることすら見ることもありませんでした。仕事のクオリティは推して知るべし。

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私がゼネコンの現場で仕事をしていた時、一日の終わりに所長や現場主任はよく自分のノートにメモを記載していました。ある人は日記だと言い、ある人は備忘録だと言っていましたが、一日の終わりに記憶が薄れる前にしっかり何が起きたかを記録しておく癖にいたく感銘を受けたものです。
なぜ備忘録を書くのでしょうか?もちろん、先々、メモを見直すことで記憶をよみがえらせるということはあります。ただ、それ以上に備忘録のようにある事柄についてメモを作るのは自分の頭でもう一度、何が議論され、何が起き、何が決定されたかを考え、それを自分の指先を使い、ペンで記すことでしっかりとした記憶の植え付け(定着化)を行うのです。
私がよく知る当地の大学で日本語を教えている先生が私によく言うのです。「教科書は紙に限るわよ。電子版にすると極端に学生の成績が落ちる」と。紙の教科書はボリューム感や全体像、更に自分がいま、どのあたりを学んでいるか、瞬時に判断できます。ところが電子ブックだとその質感、重量感は全くわかりません。
もう少しわかりやすい例をあげましょう。あなたがもしもマラソンに参加しているとします。時折ある現在位置の表示(何キロ地点とかゴールまであと何キロという表示)は走る者にもの凄いエネルギーと頑張る力を与えてくれます。その指標があるからこそ、人間は目的地を認識し、そこまでのプランをどう組み立てるか走りながら考えるのです。つまり目標や立ち位置の見える化です。