同様の違和感は研究の世界でも認知されているようで、AIには会話相手や会話内容ごとの「会話の独自性」に苦労していることが報告されています。

人間の場合、誰と話すか、何を話すか、いつ話すかによって会話に使われる言葉が大きく変化し、場面ごとのユニークな会話が可能です。

さらに会話中に極端な話題の転調やトーンの変化が起こることがあり、それが会話のノリを楽しいものにしたり、笑いの元になったりもします。

こうしたその場限りのクセやノリは話し手同士のアイデンティティを反映し、特定の会話に「指紋」のような独自性を与える重要な要素です。

そこで今回研究者たちは、AIの会話には人間のような独自性がはっきり欠けているかを調べ、それを数値化して人間との違いを具体的に示そうと試みました。

AIの会話には「会話の指紋」がない

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研究グループはまず、人間同士の自然な会話を分析するため、家族間の電話の内容を記録したデータベースを利用しました。

このデータベースから抽出したのは、親子や親戚同士の電話会話で、それぞれ約240回ずつやり取りが行われていました。

これらを「人間が行う自然な会話」として使い、後でAIの会話と比較します。

次に研究者は、AIのChatGPTにも会話を作成させることにしました。

その方法として、まずAIに人間の会話と同じような家族関係や話の状況を設定して与え、電話でのやり取りを再現するように指示しました。

ただし、登場人物をまったく同じ人にするのではなく、「母と娘」といった同じような関係性を持つ架空の人物を使って会話を生成しました。

また、AIが作る会話の発話回数(ターン数)は人間と同じ約240回でしたが、実際の語数はAIの方が少なくなりました。

こうしてAIが生成した会話と、人間の実際の会話データとを比較分析したのです。

その結果、まず興味深いことに、ChatGPTは相手の話に対して共感を示したり、相槌を打ったりすることに関しては非常に優れていました。