博士が実践する「交信術」- フェニックスとボタンの実験

 スワート博士が編み出したのは、言葉を交わすのではなく、特定の「サイン」を通じてコミュニケーションを取るという方法だ。

 まず彼女は、心の中で夫に「フェニックス(不死鳥)のサインを見せてほしい」と頼んだ。するとその後、旅行先で「フェニックス・ガーデン」という名のレストランを頻繁に見かけ、さらには搭乗予定だった飛行機が、予期せずアリゾナ州フェニックスを経由するルートに変更されたという。

 しかし、こうした体験は単なる偶然ではないのか? ポッドキャストの司会者スティーブン・バートレット氏が指摘するように、これらは心理学で説明がつく現象かもしれない。

それは本当に交信か? 心理学が示す「確証バイアス」という罠

 博士の体験は、確証バイアスという心理的な“罠”で説明できる可能性がある。確証バイアスとは、自分が信じていることを裏付ける情報ばかりに無意識に注意を向け、それに反する情報を無視してしまう心の働きだ。

 例えば、フェニックス空港はアメリカでも有数のハブ空港であり、毎日1000便以上が発着する。フライトがそこを経由することは統計的に何ら不思議ではない。しかし、「フェニックスのサインが欲しい」と願っている博士の脳は、このありふれた出来事を「夫からのメッセージ」だと特別に解釈してしまうのだ。

 さらに、特定のサインを探す行為は、「選択的注意」という脳の働きを活性化させる。これは、脳が無意識のうちに関連情報を探し始める機能で、「フェニックス」について考えていれば、街中の看板や会話の中に「フェニックス」という単語を普段より見つけやすくなる、という仕組みだ。

脳科学者が明かす「亡き夫と毎日対話する方法」その驚くべき手法と、科学が示す“心の罠”の画像3
(画像=Image byRi ButovfromPixabay)