伝説の始まり―1835年の「奇妙な遭遇」

 この驚くべき伝説の起源は、1835年にまで遡る。モルモン教の初期の指導者の一人、デイヴィッド・W・パッテンが、ある奇妙な存在と遭遇したと証言したのだ。

 伝えられるところによると、パッテンが馬に乗っていると、隣に巨大な見知らぬ男が現れた。その男は衣服をまとわず、全身が黒い毛で覆われ、肌は非常に黒かったという。パッテンがどこに住んでいるのか尋ねると、男は「私に家はない。地上をさまよう放浪者だ」と答えた。

 さらに男は、「私は非常に惨めな生き物だ。この地上で心から死を求めてきたが、死ぬことができない。私の使命は、人の魂を滅ぼすことだ」と語ったという。パッテンは、この毛むくじゃらの放浪者こそ、呪われたカインその人であると確信した。この遭遇譚は、後にモルモン教の指導者スペンサー・W・キンボールの著書『赦しの奇跡』(1969年)で紹介され、広く知られることとなった。

なぜ伝説は現代まで生き続けるのか

 もちろん、この「ビッグフット=カイン説」は、モルモン教の公式な教義ではない。あくまで一部の信者の間で語り継がれてきた民間伝承(フォークロア)だ。他の聖書解釈では、カインはノアの大洪水を生き延びていないとされ、神の印も永遠の命を保証するものではないと反論されている。

190年間語り継がれる“奇妙な伝説”、ビッグフットの正体は聖書最初の殺人者「カイン」だった? の画像3
(画像=イメージ画像 Created with AI image generation (OpenAI))

 しかし、1980年代にビッグフットの目撃情報が多発すると、この伝説は再び脚光を浴びる。歴史学者のマシュー・ボウマンによれば、ユタ州サウスウェーバーでビッグフットが目撃された際、地元コミュニティはこの伝説を用いて、不可解な現象を自分たちの信仰の世界観の中で理解しようとしたという。カインの毛むくじゃらの姿は、信仰者に対する「悪」の象徴として、また罪を犯すことへの警告として機能したのだ。

 FBIが長年調査しても決定的な証拠は見つからず、ビッグフットの存在自体が疑問視されている。しかし、聖書の物語とUMAを結びつけるこの奇妙で魅力的な伝説は、今もなおSNSや超常現象フォーラムで語り継がれ、人々の想像力を掻き立て続けている。それは、科学では説明できない謎を、物語の力で理解しようとする人間の根源的な欲求の表れなのかもしれない。

参考:Daily Mail Online、ほか

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