「衝突」が「融解」の引き金だった? 2つの説が繋がる可能性

 さらに驚くべきは、論文の筆頭著者であるムーア氏が提示した新たな視点だ。彼は、彗星衝突仮説と融解水パルス仮説は、決して対立するものではないと主張する。

「多くの人が誤解していますが、彗星衝突仮説は、融解水パルス仮説の“引き金”を説明するものなのです。数千にも及ぶ可能性のある彗星の衝突と空中爆発が、北半球の氷床を不安定化させ、巨大な氷河融解湖の崩壊を引き起こした。その結果、大量の冷水が海に流れ込み、海洋循環を停止させた。これこそが、ヤンガードリアス期の気候変動の最も可能性の高い原因です」

 つまり、「彗星の衝突」という天文学的なイベントが、地球規模の「融解水の放出」という地質学的な現象を誘発したというのだ。この視点に立てば、2つの仮説は一つの壮大なカタストロフィの物語として繋がることになる。

1万2000年前、超古代文明は「彗星衝突」で滅んだのか? 考古学最大の謎“ヤンガードリアス期”の真相とはの画像2
(画像=Image byxiSergefromPixabay)

主流科学者たちが提唱する「失われた文明」のシナリオ

 このヤンガードリアス彗星衝突仮説を一般に広めた立役者の一人が、ベストセラー『神々の指紋』で知られる作家グラハム・ハンコック氏だ。彼は長年、約1万2800年前に何らかの世界的な大災害が起こり、それ以前に存在した高度な古代文明が歴史から姿を消したと主張してきた。

 ハンコック氏は、彗星衝突仮説と出会った時の衝撃をこう語る。

「私が確信していた、1万2500年から1万3000年前に起きた大災害が、まさに彗星研究グループによって説明されていたのです。これは、一つの文明を我々の記憶から消し去ることが可能な、地球規模の大変動でした」

 そして彼は、この説が決して「トンデモ説」ではないことを強調する。

「ヤンガードリアス彗星衝突仮説を支持しているのは、誰もが確かな経歴を持つ主流の科学者たちです。私たちは、全くもってメインストリームの科学者たちと向き合っているのです」