カメラを向けただけで十数人に囲まれ…
ンジャメナでの悪夢はそれだけでは終わらない。街の様子を写真に収めようとしただけで、十数人の男たちに囲まれて襲われたこともあった。この時は、同行していた身長2メートル近い現地の友人が体を張って守ってくれたおかげで、なんとかその場を逃れることができたという。
精神的なプレッシャーも尋常ではなかった。どこへ行っても常にジロジロと見られる視線が、彼の不安を増幅させた。散々な一日の終わりに、気晴らしに入ったシーシャ(水タバコ)バーの外で電話をしていたら、人間の糞を踏んでしまったことまであったという。「動物のじゃなかった、人間のだったよ」と彼は苦笑するが、その体験がいかに過酷だったかを物語っている。
度重なるトラブルと絶え間ない緊張感に耐えかねた彼は、ついに予定を早め、チャドから脱出することを決意した。

それでも「いつか再訪したい」理由
これほど壮絶な体験をしたにもかかわらず、ビンスキーはチャドという国そのものを拒絶しているわけではない。彼は、首都ンジャメナを「非常に複雑で、敵意に満ちていた」としながらも、いつか国の北部を訪れてみたいと語る。そこでは、もっとポジティブな体験ができるかもしれないと信じているのだ。
事実、チャドは長年の政治不安により、多くの地域で治安が安定していない。日本の外務省も、首都ンジャメナを含む地域を「レベル3:渡航は止めてください(渡航中止勧告)」と勧告しているのが現状だ。
ドリュー・ビンスキーのンジャメナでの体験は、海外旅行の危険と隣り合わせにある冒険のリアルな姿を浮き彫りにする。彼の物語は、ガイドブックには載っていない世界のもう一つの顔と、未知の土地へ足を踏み入れることの本当の意味を私たちに教えてくれているのかもしれない。
参考:Misterios do Mundo、ほか
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