普及に必要なのは「制度の後押し」

 技術の優位性があっても、市場が動くには制度的な後押しが欠かせない。たとえば金融業界では「犯罪収益移転防止法」に基づき、口座開設時の本人確認方式が法で定められている。海外ではすでにデジタル証明によるKYC(本人確認)が認められ、VCが活用されているが、日本ではまだ限定的だ。

 国内でもメガバンク主導のコンソーシアムが普及に向けて取り組んでいるが、成果はこれからだ。

 もし法制度で「VCを本人確認方式の一つとして認める」動きが出れば、市場は一気に拡大するだろう。

マイナンバーカードとの関係、そして海外展開

 日本ではマイナンバーカードという強力なインフラがある。本人確認のユースケースではVCと競合関係になる部分もあるが、国際展開を考えると話は別だ。

 教育分野では、単位の国際互換をVCで実現する取り組みが進んでいる。留学した学生の履修データを、国境を越えて信頼できる形で証明できるようになる。こうしたグローバルユースケースでは、国内に閉じたマイナンバーでは対応できない。ReceptもEUとの相互接続を視野に入れ、すでに実証実験を始めている。

 Receptの取り組みから得られる学びは、単なる技術論にとどまらない。

** ・信頼の構造転換 ** 従来は「組織にデータを預ける」ことで成り立っていた信頼を、「データそのものが信頼できる」構造に変える。この発想は、業界を問わずサービス設計の前提を揺さぶる。

** ・サービス設計の壁 ** 新技術を導入する際、制度よりも「既存システムに組み込むコスト」と「メリットの見せ方」が最大の障壁となる。スタートアップはそこに伴走力を発揮できるかどうかが鍵になる。

** ・制度と市場の連動 ** 技術の普及は、規制や標準化の後押しによって大きく加速する。技術だけでなく、政策環境をどう読み解くかが経営戦略の重要な一部になる。

「Receptはプラットフォーマーになろうとしているわけではない。DID/VCという領域で、日本で最も実用的な技術提供者でありたい」

 中瀬氏の言葉は、スタートアップとしての潔さを示す。見えにくいインフラ領域であっても、その上に立つユースケースが広がれば、やがて誰もが当たり前に使う存在になる。信頼を「サービス」ではなく「データ」そのものに委ねる世界。その基盤を支える企業として、Receptの挑戦は始まったばかりだ。

(文=UNICORN JOURNAL編集部)