●この記事のポイント ・デジタル証明の新しい国際標準「DID/VC」が、従来の信頼モデルを変えつつある。不要な個人情報を渡さずに、必要な事実だけを証明できるのが特徴。 ・この技術で、個人データは企業やサービスに紐づかず、データそのものが信頼される時代になる。EUは2026年までの基盤整備を義務化するなど、世界で普及が加速している。 ・Receptは、このDID/VC技術の基盤を提供。自治体との連携や海外展開も視野に入れ、「技術インフラ」として社会実装を支えている。

 いま世界的に、「データを誰が持ち、誰が信頼を担保するのか」という根源的な問いが突きつけられている。

 アップルのウォレットにマイナンバーカードを格納できるようになったことは、その象徴的な出来事だろう。その裏側には、DID(分散型ID)やVC(Verifiable Credentials)という国際的に普及が進む新しいデジタル証明の仕組みがある。

 この技術に特化し、事業者向けの発行・検証基盤とユーザー向けウォレットアプリを提供しているのが、スタートアップの株式会社Recept(リセプト)だ。

 従来の中央集権型の証明モデルに比べ、セキュリティやプライバシーの扱い方が大きく変わるこの技術を、どのように社会実装しようとしているのか。Recept代表取締役の中瀬将健氏に、経営者にとっても示唆の多い話を伺った。

●目次

デジタル証明の「次の当たり前」

 Receptが提供するのは、一見するとインフラ的な技術だ。SIer(システムインテグレータ)や大手企業がまだ内製できていないDID/VC技術をパッケージ化し、APIやSDKとして利用できるようにしている。公共案件や新規事業で「DID/VCを使いたい」という要件が出てきたとき、Receptの基盤を活用すれば短期間で安全なサービスを立ち上げられる。

 その強みを理解するには、従来の電子証明の仕組みとの違いを押さえておく必要がある。たとえば飲酒時の年齢確認を考えてみよう。

 従来は免許証やマイナンバーカードを提示するが、その際には氏名や住所、顔写真など不要な個人情報まで一緒に開示してしまう。これに対してVCでは「20歳以上である」という事実だけを証明できる。不要なデータを開示しない──これがGDPR(EU一般データ保護規則)に象徴される欧州のプライバシー規制とも親和性が高く、国際標準化が急速に進む背景となっている。