その理由は明快で、冬でも海氷の上でアザラシを狩ることができるからです。

ヒグマやクロクマが冬になると餌不足に陥り、穴にこもって過ごします。

対照的に、ホッキョクグマは氷上という“狩りの舞台”を持ち、冬の間もアザラシを捕食して生き延びているのです。

ただし例外もあります。

妊娠中のメスは、秋から春にかけて雪穴にこもり、数カ月間活動をほとんど止めて出産と子育てに専念します。

また、高緯度地域の一部では、妊娠していないメスが冬の間、数週間から数カ月ほとんど動かずに過ごしていた例も報告されています。

ですが、これも体温が大きく下がるタイプの冬眠とは異なるとされています。

では、夏のホッキョクグマはどう過ごしているのでしょうか。

ホッキョクグマを苦しめる「夏」と「気候変動」

夏になると北極の氷は溶け、アザラシも捕まえにくくなります。

ホッキョクグマは内陸に移動し、時には断食に近い省エネ生活を余儀なくされます。

一部の研究では、「夏の間、ホッキョクグマは代謝を落としながらもある程度身体活動を維持して歩き回る状態になるのでは?」という説も出されました。

しかし後の大規模調査では、これは「普通の断食時の省エネモード」に過ぎず、冬眠とは異なることが判明しています。

その時のホッキョクグマは「通常の哺乳類の空腹レベルに近い」ものだったのです。

つまり、ホッキョクグマはメスの例外を除いて、冬でも夏でも冬眠しません。

他の哺乳類が冬眠するのは、その時期に食料が取れないためです。

ホッキョクグマは冬でも食料が得られるため、冬眠する必要はありません。

また夏は食料を得ることが難しくなるものの、冬眠するほど過酷ではありません。

こうした特殊な環境が「冬眠しないホッキョクグマ」を生み出しているのです。

しかし今、地球温暖化が北極圏の環境を大きく変えつつあります。

氷が減少し、夏が長くなることで、ホッキョクグマが狩りをできる期間が短くなり、夏の断食や栄養不足が深刻化しています。