一方、フェンタニルは本来は末期がんや手術の痛みなどに医療用で使われる超強力な鎮痛薬ですが、近年では違法ドラッグとして流通しています。

他の薬物に混ぜられて売られることが多く、数ミリグラムの摂取でも急性中毒死が多発しています。

飼い主は「自宅には違法薬物も危険な薬もない」と主張しましたが、直前に知人宅を訪れていました。

真偽は不明ですが、おそらくこのチワワはどこかに“落ちていたストリートドラッグ”を食べてしまったのでしょう。

実際、犬は「何でも口に入れる」習性があり、散歩中や他人の家、路上のゴミなどで思わぬ事故が起こるのです。

ちなみにチワワが食べたとされる「ストリートドラッグ」は、近年アメリカを中心にコカインとフェンタニルが混ざった“より危険な違法薬物”として流通が拡大。

ペットだけでなく、誤飲した子どもや大人も中毒死する事件が相次いでいます。

獣医師は「薬物中毒が疑われる場合、恥ずかしがらずに正直に申告してほしい」と呼びかけています。

では、今回コカイン中毒になったチワワはどうなったのでしょうか。

“興奮剤”なのに心拍が遅くなる?治療によりコカイン中毒のチワワが生還

一般にコカイン中毒というと「心臓がドキドキして速くなる」イメージが強いかもしれません。

ところがこのチワワは、まったく逆の“極端な心拍低下”に陥りました。

なぜこのような現象が起きるのでしょうか?

コカインは脳や心臓の神経伝達物質を増やし、交感神経を刺激して心拍を上げる作用があります。

しかし、「高用量」を一気に摂取すると、今度は心筋のナトリウムチャネルやカリウムチャネルを遮断してしまいます。

電気信号が心臓の中で伝わりにくくなり、“局所麻酔薬”のような作用が前面に出てくるのです。

その結果、心臓のリズムが乱れ、「房室ブロック」や「心拍数の低下」といった本来と逆の症状が現れたのでしょう。

この犬の治療では、まず心臓のリズムを回復させるため「アトロピン」を通常の5倍量投与しました。