
古くから精神的な修行や儀式で用いられてきた「ブレスワーク(呼吸法)」。近年では、心身の健康やウェルネスを高める手法として再び注目を集めている。特に、音楽と組み合わせた特殊な呼吸法は、至福感や、時には幻覚剤(サイケデリック)を使った時のような神秘的な精神状態を引き起こすことが知られていた。
そして今、最新の査読済み研究によって、この古代の知恵が現代の神経科学と結びついた。速く深い呼吸法が「変性意識状態」を誘発し、薬物を一切使わずに心の痛みを和らげるセラピーとしての可能性を秘めていることが、科学的に示されたのだ。
古代の知恵と最新科学の融合
この画期的な研究を発表したのは、英国ブライトン・アンド・サセックス医科大学の研究チームだ。彼らは、音楽に合わせてリズミカルに速く深い呼吸を行う「高換気ブレスワーク(HVB)」が、人の主観的な体験と脳の生理機能にどのような影響を与えるかを、最新の脳スキャンを用いて調査した。
研究を主導したエイミー・アムラ・カーター氏とアレッサンドロ・コラサンティ博士は、「我々の研究は、ブレスワーク中に脳内で起こる神経生理学的な変化をマッピングした初めてのものです。その結果、この呼吸法が深遠なサイケデリック状態を確実に引き起こせることが明らかになりました」と共同声明で述べている。
研究チームによると、この特殊な精神状態は、自己認識や恐怖、感情的な記憶の処理に関わる脳の特定領域の機能変化と関連しているという。特に、脳の血流の変化が深まれば深まるほど、「oceanic boundlessness(大洋的な無限感)」として知られる一体感、至福感、そして感情の解放といった感覚が強まることがわかった。これは、マジックマッシュルームの有効成分であるシロシビンなどがもたらす体験の大きな特徴とされている。