(※ 彼女は未来を当てれるわけではありません。私たちも未来の出来事を想像することがありますが、TLの場合は、その出来事が鮮明な感情や知覚を伴って現れるため、さも現実に起こったかのように体験してしまうのです)

もっとも、時間的にかなり離れた遠い未来に関しては一般の人々と同じように鮮明さが低下する傾向が見られました。
時間的距離が大きいほど、イメージがぼやけてしまうのです。
それでもなお、彼女の「心的時間旅行」の能力は突出しており、研究者たちを大いに驚かせました。
この症例は、私たちが未来を想像するときに用いる脳の仕組みが、過去を意識的に思い出すときと共通している可能性を示唆しています。
そしてTLの場合、そのプロセスが並外れて鮮明かつ意識的に制御されているのです。
TLの症例は、記憶が単なる情報の集積ではなく、感情や自己意識、未来の予見にまで結びつく複雑なシステムであることを浮き彫りにしました。
これまでのハイパームネジアは、多くの場合「記憶の洪水」に苦しむものと考えられてきましたが、TLはむしろそれを整理し、ある程度コントロールできている点でユニークです。
彼女の「心の部屋」や「未来の予体験」は、記憶と感情、想像力の結びつきを理解する上で新たな手がかりとなるでしょう。
全ての画像を見る
参考文献
Mental Time Travel: A New Case of Autobiographical Hypermnesia
https://parisbraininstitute.org/news/mental-time-travel-new-case-autobiographical-hypermnesia
Teenager with hyperthymesia exhibits extraordinary mental time travel abilities
https://www.psypost.org/teenager-with-hyperthymesia-exhibits-extraordinary-mental-time-travel-abilities/