また、腎臓は体内の塩分バランスを調整し、余分な塩分を排出する働きを持っていますが、腎臓の働きがうまくいかないと体に塩分が残りやすくなり、やはり血圧が上がりやすくなると考えられてきました。

つまり、「塩分をとる→血液中の塩分濃度が上がる→血液の量が増える→血管に圧力がかかる(血圧が上がる)」という流れが従来の説明です。

しかし、同じ量の塩分をとっても血圧があまり上がらない人もいれば、逆に少しの塩分でも敏感に反応して血圧が上がる人もいます。

こうした個人差は、従来の説では十分に説明することができませんでした

こうした疑問に対して最近では、血圧をコントロールしているのは心臓や血管、腎臓だけではなく、脳も重要な役割を担っていることが分かってきました。

たとえば脳の「視床下部(ししょうかぶ/Hypothalamus)」は、自律神経やホルモンの働きを通じて、血圧を細かく調整しています。

さらに、動物実験などから、脳内の免疫細胞である「マイクログリア(Microglia)」が活性化し炎症が起こると、血圧が上昇することも報告されるようになりました。

このような研究の積み重ねから、「塩分を摂りすぎたとき、脳で炎症が起きることで血圧が上がるのではないか?」という新しい仮説が生まれたのです。

今回の研究は、この仮説をラットを用いた実験で確かめています。その結果はどのようなものだったのでしょうか?

塩分が脳に炎症を引き起こす“見えないリスク”

実験の結果、ラットたちは塩分を多く摂取した後、血圧が徐々に上昇していきました。

この変化自体は、これまでの「塩分=高血圧」という常識通りの結果です。

しかし、研究チームがさらに詳しく脳の中を調べていくと、驚くべき事実が見つかりました。

まず、血圧のコントロールに関わる「視床下部(ししょうかぶ)」で、普段は静かに働いているはずのマイクログリア(脳の免疫細胞)が一斉に活性化していたのです。