日本メーカーの中国戦略転換点
日本の自動車メーカーがCATLのプラットフォームを採用する背景には、中国市場での厳しい競争環境がある。
「日本の自動車メーカーは中国で非常にシェアを落としています。1番シェアを落としている原因は、日本のメーカーのコスト競争力、特にEVにおけるコスト競争力が、現地のBYDやGeelyなどに対して大きく劣っているからです。いかに現地化をして、現地のメーカーに対抗できるようなコスト構造を作り上げていくかが重要な課題となっています」
実際に、日本メーカーは段階的な現地化戦略を進めている。
「第1段階として、マツダは長安という会社が開発したEVの中身はほとんどそのまま使い、デザインや味付けをマツダ独自のものにしています。日産は、合弁先の東風汽車が開発した車を、ほぼそのまま日産のバッジを付けて売っています」
ホンダの事例は、独自開発の限界を示している。
「ホンダは最近、合弁先と共同で新しいEV専用の工場を立ち上げて、競争力のあるEVを作ろうとしていましたが、残念ながら同じクラスの中国メーカー製EVに比べて価格が割高になってしまい、売れ行きは芳しくありません」
この状況を受けて、ホンダも戦略の軌道修正を図っている。
「ホンダはCATLのEVプラットフォームの採用を検討していると言われていますが、いずれにせよ部品調達から開発まで徹底的に現地化しなければコスト競争力を確保できないことが明らかになり、戦略を軌道修正しているところだと思います」
一方で、鶴原氏は市場の棲み分けも指摘する。
「こうした動きは、日本のメーカーが独自のEVの開発をやめるということを意味するわけではありません。日米欧といった先進国向けには、各社とも次世代EVの開発を進めています。しかし中国のマーケットにおいては、EVのコアになる部分も含めて現地化をしていかないと、コスト競争力が確保できないことが明らかになりました。CATLからEVプラットフォームを丸ごと購入することも、そのための手段として日本メーカー各社が決定、あるいは検討していることだと思います」
CATLの世界展開も着実に進んでいる。
「CATLはすでにドイツに工場があり、ハンガリーやスペインなどにも工場を建設しようとしています。これまでヨーロッパの自動車メーカーは韓国メーカーの電池を多く採用してきましたが、今後はCATLを含めた中国メーカーの電池の採用を増やしていくと思われます」
ただし、アメリカ市場では政治的な障壁が存在する。
「フォードがアメリカでCATLの技術を導入した電池工場を作ろうとして、トランプ政権がそれに対して差し止めをしました。CATLがアメリカに進出するのはかなり難しそうです」
ここまで見てきたように、CATLは電池メーカーから総合的なモビリティソリューション提供企業への転換を目指している。電池単体の供給からプラットフォーム全体の提供へと事業領域を拡大することで、自動車業界における影響力を飛躍的に高めようとしている。日本の自動車メーカーにとっては、グローバル市場での競争力維持と技術的自立性の両立が今後の重要な課題となりそうだ。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=鶴原吉郎/オートインサイト代表)