しかしクモの糸を量産する手法が見つかっていないため、これまで利用されてきませんでした。

動物繊維の特性や生産の観点で見ると、カイコとクモは真逆の存在です。

カイコは狭い空間に何百匹いても平和に暮らすことができ、たくさんの糸を生産できますが、その糸は丈夫ではありません。

クモの糸は強いが、クモの性質上量産できない
クモの糸は強いが、クモの性質上量産できない / Credit:Canva

一方、クモには共食いの性質があります。

互いに攻撃するため、狭い空間では何百匹いたとしても最後には1.2匹しか残りません。

高強度の糸ですが、たくさん生産することはできないのです。

そこで研究チームは、大量に飼育できるカイコに、強力なクモの糸を紡がせることにしました。

遺伝子編集されたカイコがクモの糸を紡ぐ

これまでにも、カイコを遺伝子操作してクモの糸を作る試みは行われてきました。

しかし、クモの糸のタンパク質はカイコに比べて大きいことや、異なる生物であるクモの遺伝子をカイコに挿入すること自体の困難さから、なかなかこの研究は進展していませんでした。

そこでミー氏ら研究チームは、東アジアに生息するオニグモ(学名:Araneus ventricosus)の糸の小さなタンパク質を用いることにしました。

CRISPR-Cas9(遺伝子改変ツール)とカイコ受精卵への数十万回のマイクロインジェクション(遺伝子などを細胞内に注入する方法)によって、その小さな「クモの糸タンパク質遺伝子」をカイコのDNAに導入。糸を作り出す腺で発現できるようにしたのです。

マイクロインジェクションは、この研究において最も大きな課題の1つだったため、ミー氏は、遺伝子編集成功のサインを発見した時に大喜びしました。

彼によると、「結果を報告するために踊りながら教授のオフィスに駆け付け」「興奮で夜も眠れなかった」ようです。

また研究チームは、クモ糸タンパク質がカイコ腺内のタンパク質と適切に相互作用するために、クモ糸タンパク質に「局在化(タンパク質などが細胞内の特別な部位や領域に存在して機能すること)」修飾を施す必要がありましたが、これにも成功しました。