EEGでは異常が見られなかったものの、医師たちは、この患者の幻覚が「色や顔の情報を処理する脳の一部」、特に後頭部の腹側後頭側頭皮質(ventral occipitotemporal cortex)の異常な電気活動によって引き起こされている可能性を指摘しました。

この領域は物体認識をつかさどる脳の部位として知られています。

では、診断結果として女性の幻覚症状はなんという病名だったのでしょうか?

女性がかかっていた病気とは?

最終的に医師たちは、この女性が「プロソポメタモルフォプシア(prosopometamorphopsia, PMO)」と呼ばれる症状を抱えていると診断しました。

この稀な状態では、人間の顔の認知に異常が生じ、顔の特徴が極端に歪んで見えるのです。

例えば、顔の一部が大きくなったり小さくなったり、垂れ下がったり横に伸びたり、位置がずれて見えることがあります。

また「片側プロソポメタモルフォプシア(hemi-PMO)」の場合は顔の片側だけが歪んで見えますが、「全面プロソポメタモルフォプシア(full-face PMO)」では顔全体が歪んで見えてしまいます。

この状態は、脳の構造的な変化や、てんかん、片頭痛、脳卒中といった脳機能に影響を与える疾患と関連があるとされています。

そこで医師たちはまず、女性に対して抗てんかん薬である「バルプロ酸」を1日1回処方しました。

バルプロ酸は発作を防ぐ効果があり、片頭痛や双極性障害の症状を和らげる作用もあります。

この治療によって、女性の「顔がドラゴンに見える」視覚的な幻覚はコントロール可能な範囲に収まりました。

しかしその後、彼女は就寝中に「大きな音が聞こえる幻聴」を体験するようになります。

それに対応して医師たちは、アルツハイマー病やパーキンソン病に伴う認知症の症状治療に一般的に用いられる「リバスチグミン」への切り替えを行いました。

この薬により聴覚的な幻覚は減少し、視覚的な症状も耐えられるレベルまで軽減しました。