では、人類はやはり“親指が長くて脳も大きい特別な存在”なのでしょうか?

研究者たちはこの点についても詳しく検討しました。

解析の結果、現生人類も含め多くのヒト族(ホミニン)は、他の霊長類と比べて親指が長い傾向にあるものの、脳との関係性の中では決して例外的ではないことが判明しました。

つまり、人間は確かに親指も脳も大きいですが、それは「全体的な進化の流れに沿った結果」にすぎないのです。

ただし一例だけ特異な存在がありました。

それが約200万年前に存在したアウストラロピテクス・セディバです。

この種は、脳が比較的小さいにもかかわらず、予想以上に長い親指を持っていました。

研究者は、この特徴が「木登りと地上生活を行き来する独特なライフスタイル」と関係していたのではないかと考えています。

さらに注目すべきは、この研究が「親指の長さだけで道具使用の有無を判断できない」と結論づけた点です。

道具を使うかどうかにかかわらず、親指の長さと脳の大きさの関係は一貫して霊長類全体に見られたからです。

つまり、道具文化を支えたのは親指だけではなく、手全体の骨格や筋肉、そして脳のさまざまな領域が複合的に進化した結果だといえます。

親指を見つめることは、私たちの進化の物語を見つめることでもあります。

小さな物をつまんだり、道具を操ったりするたびに、そこには数千万年にわたる「脳と手の共進化」の歴史が宿っているのです。

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参考文献

Primates with longer thumbs tend to have bigger brains, research finds
https://www.theguardian.com/science/2025/aug/26/primates-with-longer-thumbs-tend-to-have-bigger-brains-research-finds

元論文

Human dexterity and brains evolved hand in hand
https://doi.org/10.1038/s42003-025-08686-5