それでも現場に届かない「導入の壁」

 社会実装が進んでいるとはいえ、現場での導入はまだ限定的だ。当初は薬事承認が下りないということもあったが、そこはクリアできつつある。しかし、保険収載(公的医療保険として認められ、診療報酬で点数がつくこと)がまだであるため、導入には病院側の自費負担が求められる。

「導入が進んでいるのは一部の医療機関に限られていて、医療機器が本当の意味で全国に普及するには、保険加算に関する働きかけが必要です。それが見込めるのは、早くても2030年ごろではないかとみています」(金井氏)

 加えて、診断における責任の所在や規制との兼ね合いから、現状ではAIは「診断支援」に留まり、最終的な判断は医師が行う必要がある。効率的に活用するためのファーストリード(AIが最初に医療画像をスクリーニングし、異常の可能性がある画像を選別する役割を担うこと)も制度上は難しい。

「特に自治体での導入は予算を取るのに時間がかかるため、2年は必要だと思います」(同上)

地方で使われている理由は「誤診を防ぐ」ため

 こうした状況のなかで、AI内視鏡の導入に踏み切ったのが、和歌山県田辺市にある竹村医院の高原伸明医師だ。年間約1200件の胃カメラ検査を1人で担う高原医師は、導入の理由をこう語る。

1200件の検査を一人で…AI医療機器×地方医療の最前線の画像2
(画像=内視鏡画像診断用ソフトウェア「gastroAI model-G2」)

1200件の検査を一人で…AI医療機器×地方医療の最前線の画像3
(画像=『Business Journal』より引用)

「専門医が少ないこの地域では、二重読影や指導体制を整えることは現実的に不可能です。私自身も69歳になり、体力の低下は避けられません。万一のことがあってはいけないと、見落としを防ぐためにAIの力を借りようと考えました」

 AIが示す疑わしい箇所に対して、人間がもう一度丁寧に観察を行う──高原医師が導入した使い方は、まさにAIを“補助線”として活用するモデルだ。現時点ではAIだけに任せるのは困難だが、医師がAIの指摘に応じて観察することで、見逃しリスクを減らすことができる。

「進行がん・早期がんを1例ずつ見つけられています。すべてAIのおかげとは言いませんが、少なくとも“見逃さずに済んだ”という安心感はあります」

 竹村医院がある田辺市では、専門医はごくわずか。南に下るほど医師は激減し、「ガイドライン通りに診療すれば、診療自体が成立しない」状況だという。地方の病院は経営が厳しく、若手医師はどんどん都市部へ出て行ってしまう。親の代から続く医療機関であっても、子どもを医師として育て上げたにもかかわらず、後継者にはならない——、そんな話も珍しくないという。

 医師不足の現実に直面する地方の医療現場。高原医師は、自らが引退すれば「後がいない」状況になると語る。医師会も含めて、開業医と勤務医の意識差があるため、制度改革への動きも鈍いという。